2008-01-01から1年間の記事一覧

文化は誰のものか

医師がまだ「プロ」として認知されてた大昔、自分たちは病院内で自由に振る舞って、 患者さんは慎み深く、トラブルなんてなかった。 技術だとか、知識だとか、彼我の差は圧倒的で、だから病院は聖域であり得たし、 トラブルが起きたところで、もしかしたらた…

水は低いところに流れる

「顧客の声に耳傾けるのは大切」なんて言われるけれど、耳を傾けたその瞬間から、何か大切なものが劣化する。 小児医療無料化のこと 「医療費はタダがいいよね」なんて「顧客」の声が、小児医療の無料化を実現した。 これから大変になる、らしい。 自分たち…

環境と対峙するためのシンプルな道具

無人島みたいな環境に1 人残された主人公が生き延びるために知恵を絞る、「ロビンソンクルーソー」 みたいな物語には、その環境に対峙していくための道具が欠かせない。 恵まれた環境は、小説を生まない。何も持たない人間でも生活できるような場所なら、 そ…

人工呼吸器の思想的後退について

呼吸状態の悪い患者さんがいて、病棟で挿管して呼吸器につないだ。 電源も、酸素の配管も、いつもどおりにきちんと接続されているのに、呼吸器は作動しなかった。すごく焦った。 その日はたまたま、今まで使ってた呼吸器がメンテナンスに出されてる日で、病…

一本勝ちは強いのか?

ボクシングだとかレスリングみたいに、「相手が自分と同じ技量を持っている」 ことを前提に技が作られている競技と、合気道みたいに、「相手がこちら側の技を知らない」ことを前提に している競技とがあって、柔道もどちらかというと、「技をかけられる側の…

「乱暴な当直マニュアル」を作りたかった

出版をもくろんで、いろいろあって潰れた企画。研修医向けの、「翌朝まで」を乗り切るための本になるはずだった。 各科の言い伝え 都市伝説にも届かないような、いろんな先生方から聞いた、乱暴な一言。 腹痛の患者さんは、絶食して抗生物質と十分な輸液を入…

大きな数に対する態度

ちょっと前、若い人が原因不明の発熱で入院して、診断がつかなかったことがある。 目に見える症状は「発熱」だけだったから、熱源調べたり、血液の培養出したり、 考えて、調べて、「これ」という原因がはっきりしないまま、何日か経った。 その方は、外来で…

弔辞の比較

赤塚不二夫 氏の葬儀で、タモリが読んだ弔辞の比較。たぶんそこに集まった記者の人が聞き書きしたものだけれど、 新聞社ごとの立ち位置とか、葬儀に集まった人に対する考えかただとか、いろいろ邪推できて面白い。 比較したのは朝日新聞と、産経新聞。産経新…

かっこ悪いことは本当はかっこいい

どんなベテランでも判断ミスから自由になれないし、油断すれば失敗する。患者さんに怒鳴られたら 腹も立てるし、相性のいい研修医とそうでない研修医、神様じゃないから、平等に接することなんてできない。 ときどき完璧になれても、常に完璧でいられる人な…

マナーのこと

病棟のちょうど真ん中、ナースルームというところは、普段からドアが解放されていたり、 新しく造られた病棟だと、最初から「壁」が存在しないところも多い。 病院という場所は、ほとんどあらゆる人間模様の集積地みたいな場所だし、そこで暮らす自分たちも…

戦争の心理学

戦争の心理学という本の抜き書き。 本書の目的は「裁くことでも非難することでもなく、ただ理解すること」。 「パンツを汚す」兵士は珍しくない 警察官や消防士として負傷者の救出に当たっている人は、負傷者の大小便失禁が珍しくないことを知っている 戦闘…

きれいの弊害 洗練の誤謬

医療みたいな不確定要素を相手にする業界は、「模範的な医師」を想定してはいけないのだと思う。 症例検討会のこと 研修医が患者さんを受け持って、必然と、偶然と、病棟でいろんなことが重なって手術になる。 珍しい病気だったり、病理学的に「きれいな」症…

「医学的」は案外狭い

年次が上がるにつれて、当直とか徹夜とか、だんだん辛くなってきて、 「深く眠る」、ただそれだけのことが、今はすごく切実。 求めるものはみんな一緒。上の先生がたは、エルゴフレックス という寝具を使ってて、けっこう調子がいいらしい。 マットレスと敷…

みんなの意見で社会が滅ぶ

うちの地域でも、中学生以下の小児医療が無料になる。来年あたりから本決まりになるみたいで、 まだかろうじて生き残っている、小児救急やってる先生がたは、今からもう「終わった」とか言ってる。 夜間の小児科外来は、来る子供のうち9割以上は「軽症」。た…

信頼を価値につなげる

ピーク性能自体は決して高くないけれど、裏切らない、不実なことをしない、そんな「まじめ」な人の まじめさというものが、何かの価値につなげられないか、ときどき考える。 その人に成し遂げられる仕事というのは、もっと人件費の安い、中国だとかベトナム…

欺瞞と匿名がネット社会の本質

世田谷区の小学生が、任天堂の携帯ゲーム機「ニンテンドーDS」を使った、 独自の鬼ごっこを考え出して遊んでるなんてニュースが、なんだかすごく未来っぽい。 細かいルールは報道されていないけれど、基本は普通の鬼ごっこ。 ゲーム機の通信機能を駆使して…

「大丈夫」の排出権取引をやらせてほしい

今の時代、「大丈夫」という言葉は、腕を磨いて到達するものではなくて、「ここ」という領域を 切り取ってくるものになっている。 テレビに出てくる病院 TBS の医療番組をときどき見る。今時珍しい、医師を褒めちぎるスタンスの番組。 特集されるのは、たい…

粒度について

今さらながら、手術後患者さんの塞栓予防について、「どの薬使おうか」なんて相談してる。 とくに整形外科の患者さんは、術後の安静時間が長かったりで、下肢の静脈血栓を合併しやすい。 足が腫れたり、場合によっては血栓が肺に飛んだりして怖いから、今で…

型のこと

型というのはたぶん、何かを学習するための道具なのであって、それ自体を学ぶべき目標と 定めてしまってはいけないのだと思う。 弓道に関するうろ覚え もう道場に行かなくなってずいぶん経つから、うろ覚えでしかないけれど、 今の弓道で教えられている「型…

学問の舞台設定

しっかりした地盤なしで成立する建物がないように、専門家が「学」を立ち上げるためには、 専門知識が実際に役立つための舞台設定が欠かせない。 砂漠戦に強い将軍がいたとして、その人が単純に「強い」という理由だけで艦隊を率いる立場に抜擢されても、 た…

「元気玉」の社会的有用性

「外傷がひどくて血が足りません。知りあいを当たって、A 型の血液を集めて下さい」なんて、 ご家族に協力を依頼できた時代は、あるいは医師-患者間のトラブルは少なかっただろうなと思う。 その頃はまだ、そこに集まった全ての人が、患者さんの治癒に貢献で…

test

画像投稿テスト。今15ヶ月ぐらい。 後ろから。 去年の5月頃。 壁紙用

「きれいなやりかた」を目指して失われるもの

外傷の患者さん受け持って、いろんな方からJTEC、「外傷初期診療ガイドライン」読むといいよ なんて言われた。読んでみて、やっぱりなんか無理だと思った。 「現場の裁量」認めちゃいけない ガイドラインは分厚くて、「この通りにやれば大丈夫」を目指してい…

猜疑心村の診療所

ときどき酔っぱらった人を診察する。様子がよく分からなくて怖いから、 「朝まで様子見ませんか?」なんて水向けるんだけれど、「俺は大丈夫だ」とか 宣言して、たいていお金踏み倒して帰る。それでも無事ならばいいんだけれど、 日本のどこか別の場所では、…

多発外傷の人が来た

当直の反省。 内科の一人当直。その日の救急当番病院は、地域の総合病院だったのに、 多発外傷の患者さんを引き受けることになった。 「自転車で転んだ患者さんです。軽症です。顔から出血しています」 その日の当番病院が忙しいとかで、「自転車で転んだ」…

思考と暴力の相補性

父親が亡くなったとき、もちろん葬儀を行う必要があって、 大学の人達に葬儀社を推薦していただいた。 「先生ぐらいの方であれば、このぐらいの規模は必要かと存じます」なんて、腰の低い葬儀社の人が 相談に乗ってくれた。「800万円」の後半を請求された。…

建築物としてのルール

去年以降診療報酬が改訂されて、ベッドあたりの看護師を、一定以上の人数確保した病院は 「いい病院」と認定されて、入院基本料を多く請求できるようになった。 この制度で得られる補助金は、経営方針変えるぐらいに大きなものだったから、 大学病院だとか、…

能力のこと

「激動中国」という番組で、中国の医療が特集されていた。片目を失明してしまった少年が、 網膜のレーザー照射を受けるために700km離れた北京まで出かける必要があって、それには ものすごいお金がかかって、一家が経済的に傾くお話。 番組を作った人達は、…

事象が社会と接続される

秋葉原の無差別殺人事件を見ていて思ったこと。 青年が「巖頭之感」という遺書を残して華厳の滝に飛び込んだ、昔の事件を思い出した。 個人と社会とを切断することに失敗して、事件が社会に接続されてしまった例として。 行動規範が一人歩きする その人が亡…

物語と利権

「この物語が広まって誰が特をするのかを考えましょう」なんて、道徳の授業でやってほしい。 「みんなで助けあいましょう」だとか、「高齢者を敬いましょう」だとか、道徳含んだ物語の読み聞かせ。 自分たちが子供の頃だと、「このときの主人公はどんな気持…