嫌話

水は低いところに流れる

「顧客の声に耳傾けるのは大切」なんて言われるけれど、耳を傾けたその瞬間から、何か大切なものが劣化する。 小児医療無料化のこと 「医療費はタダがいいよね」なんて「顧客」の声が、小児医療の無料化を実現した。 これから大変になる、らしい。 自分たち…

一本勝ちは強いのか?

ボクシングだとかレスリングみたいに、「相手が自分と同じ技量を持っている」 ことを前提に技が作られている競技と、合気道みたいに、「相手がこちら側の技を知らない」ことを前提に している競技とがあって、柔道もどちらかというと、「技をかけられる側の…

みんなの意見で社会が滅ぶ

うちの地域でも、中学生以下の小児医療が無料になる。来年あたりから本決まりになるみたいで、 まだかろうじて生き残っている、小児救急やってる先生がたは、今からもう「終わった」とか言ってる。 夜間の小児科外来は、来る子供のうち9割以上は「軽症」。た…

「大丈夫」の排出権取引をやらせてほしい

今の時代、「大丈夫」という言葉は、腕を磨いて到達するものではなくて、「ここ」という領域を 切り取ってくるものになっている。 テレビに出てくる病院 TBS の医療番組をときどき見る。今時珍しい、医師を褒めちぎるスタンスの番組。 特集されるのは、たい…

型のこと

型というのはたぶん、何かを学習するための道具なのであって、それ自体を学ぶべき目標と 定めてしまってはいけないのだと思う。 弓道に関するうろ覚え もう道場に行かなくなってずいぶん経つから、うろ覚えでしかないけれど、 今の弓道で教えられている「型…

猜疑心村の診療所

ときどき酔っぱらった人を診察する。様子がよく分からなくて怖いから、 「朝まで様子見ませんか?」なんて水向けるんだけれど、「俺は大丈夫だ」とか 宣言して、たいていお金踏み倒して帰る。それでも無事ならばいいんだけれど、 日本のどこか別の場所では、…

「未知のウィルス感染症」のこと

学生だった頃、目が見えないのに、近所の「教祖様」が書いたお札を眼に貼ると目が見えて、 乗用車で通ってくる眼科の患者さんがいた。 教祖が本当にすごい人だったのか。病院がすごくないのか。その人が嘘付いてるのか。 そもそも「車を運転するのに視力が必…

公平の対価

倒れてきた建物に挟まれて、身動きがとれなくなってる人にカメラが集まって、動けないその人を、ずっと取材していた。 レポーターの人は携帯電話を差し出して、その人に「今誰かと話したいですか?」なんて尋ねて、電話渡されたその人は、 どこか離れた町で出…

正しさは市場に決めてもらったほうがいい

昔研修していた病院は、400床規模の施設に医師100人あまり。 臨床研修を行う病院としては、決して規模の大きな施設では なかったけれど、総合病院を名乗ってた。 今いる病院は、300床に対して医師10人。専門外来は、 大学の先生に来ていただいているけれど、…

リソース分配のこと

子供の外傷とか、あるいは溺水とか。連休は「不慮の事故」で運ばれる子供が増える。 今年は休日当直。今から怖がってる。 うちの地域はまだ、かろうじて救急輪番制が機能しているけれど、 崩壊する一歩手前。救急当番を回せてるのは実質3 病院だけだし、 地…

地域医療の地政学

地元の新聞に、地域医療の救急枠を、県境を越えて融通しあうようなお話が掲載されていた。 生命は最も大切なものだから、県とか市とか、自治体の境界を超えて、 患者さんの収容を最優先するのだと。 勘弁してくれと思った。 うちの施設を取り巻く状況 小さな…

曖昧さを呑み込んでくれる人

休日外来。月に数回、昼間から酔って手のつけられない人が、警察同伴でやってくる。 大声出して大暴れして、たいてい手にケガしてて、外来血まみれ。B型肝炎とか持ってるから、 診るほうは大変。 「医者なんかいらねぇ」とか、よく怒鳴る。暴れてるんだけれ…

みんなで育てる化学テロ

医局でたまたま硫化水素中毒のことが話題になって、「テロに使われたら怖いよね」なんて話してた。 よくよく考えたら、テロに使われる可能性は十分あって、実際問題、防ぎようもないのかなと考えた。 硫化水素のこと 硫化水素は、ホームセンターなんかで普通…

目線が見た景色

通勤途中の交差点で、車同士の事故があった。事故を起こした車は、 自分と同じ方向を走ってて、反対側からも、何台も対向車が走ってた。 向こう側から車来てるのに、その車はいきなり右折して、 対向車とぶつかってた。ちょうど交通安全週間だったからなのか…

夢は描いた瞬間から陳腐化する

ニュース番組で、岐阜大学の救急医療情報共有支援システム「GEMSIS」が特集されていた。 「サンダーバード」に発想を得たプロジェクトで、数年がかりで取り組んでいて、 これが完成した暁には、救急医療の問題解決に役立つらしい。 開発するのに数千万円かか…

夢は描いた瞬間から陳腐化する

ニュース番組で、岐阜大学の救急医療情報共有支援システム「GEMSIS」が特集されていた。 「サンダーバード」に発想を得たプロジェクトで、数年がかりで取り組んでいて、 これが完成した暁には、救急医療の問題解決に役立つらしい。 開発するのに数千万円かか…

道路のお金

今いる施設の敷地内には10mぐらいの道路があって、公道扱い。 ここを舗装するのに、だいたい 7000万円かかったらしい。 道路を100m あきらめれば、診療所1つ、医師ごと買える。 道路を1km あきらめれば、300床ぐらいの病院が建つ。 国道を1km あきらめれば、…

社会の情報構造

ジャンプしたり、走ったり。「筋肉が収縮する」という、ごく単純な動作の集積は、 骨格という構造により複雑な動作へと変換される。脳は身体を制御するけれど、 身体には、その構造それ自体に織り込まれている情報や「知性」を持っていて、 動作というものは…

正義論理の市場開放

「どんな正義のもとに、その行為を行ったのですか?」という質問に 答えられない人には、経済活動を行う資格がない。 単純に商売を行うにしても、立場を主張して利権を獲得するにしても、 誰かの「損」を通じて利益を得る人達は、「その行動こそが正義である…

医療も「人間」から卒業していいと思う

患者さんは症状を抱えて、それを解決したくて病院に来る。 症状と治癒、両者の間には、当たり前のように「診断」が鎮座するけど、 「診断は不明で何となく治る」ことなんてよくあるし、 診断がついたところで、治らない人はやっぱり治らない。 診断という床…

経済活動を正当化する物語

技術には、漠然と「実力レイヤ」と「政治レイヤ」というものがあって、 技術が成熟してくるに従って、政治レイヤでの発言力が、業界の流れを左右する。 技術的にいくら「正しい」ことをやっていようと、政治的に自らの正当性を主張できない人達は、 その技術…

ベッドから始まる経済

寒くなったからなのか、また病棟がまわらない。病棟中探しても、 空きベッドあと3つで当直入りとか、ひどい状況。 このあたりの病院が閉まる18時前後になると、「入院が必要と思われます」なんて 紹介状を持った患者さんが増える。たいてい元気で、症状は5 …

NHKのインフルエンザ番組

発症率と弱毒化 ウィルス感染症みたいな疫病のお話をするときには、体内に入ったウィルス粒子が 実際に病気を引き起こす「発症率」と、ウィルスや細菌が進化する方向としての 「弱毒化」の問題とがあって、危険度の見積もりかたで、温度がずいぶん異なる。 …

弱さを運用する文化

今に始まったことじゃないけれど、弱い人が強く振舞うことが増えた。 この流れを生んだ原因が、未だによく分からない。どうすればいいのかだけは分かってる。 もともと「強い」側に立ってた人達が、本当に強くなればいいだけの話。 でもそれやると血の海だか…

「好き」は誰のものか

善良さを担保するコスト NHK の番組で「わらじ医者」を名乗る医師の特集が組まれていた。 いくつかの施設の院長を歴任した老医師が、そのうちコミュニケーションの重要さに 気がついて、高齢者の電話相談をはじめたり、場合によっては自らで向いて、 その患…

魔界への手引書

あらゆる交渉には、交渉によって得られるものと失うもの、 「賭け金」に相当する概念があって、交渉ごとをトラブルなく進めようと思ったら、 この賭け金をなるべく安く抑えないといけない。 交渉の賭け金がつり上がっていくと、つまらない利害の対立が、 い…

無邪気な人とのつきあいかた

無邪気さというものが敵に回ると、展開は最悪になる。 邪気のない人。いい患者でありさえすれば、いい家族でありさえすれば、 いつの間にやら医者には良心が芽生えて、患者さんは「すっかりよくなる」なんて、 心のそこから信じている人。あるいは本当はそん…

歪む時空のこと

「腕組みしたお父さん」問題 都市部では昔から、うちみたいな田舎でも、この数年増えてきた若いお父さん。 朝お父さんが出社して、お昼に子供が熱を出す。夕方遅く、お母さんが風邪ひきの子供を 近所の病院に連れて行って、夕方すぎて、まだ熱が下がらないか…

夕張の医療特番を見た

破綻した自治体の、破綻した市立病院。それを立て直そうとして独り奮闘する医師のお話。 夕張の状況は最悪。 もう何年も入院している、行き場の無い患者さん。大量の病院職員。医師だけがいない。 予算は市の財政におんぶに抱っこ。56億円もの赤字。病院を潰…

良心なんて最初から無かった

昔のお医者はやる気があったとか。内からほとばしらんばかりの良心にあふれてたとか。 爺医の人達のお茶のみ話。 よかった昔。医師は良心と奉仕、患者は慎みと公共心持ちよって、お互い美しい日々。 時代が代わって、医師は良心失って、患者は慎み無くして下…