「未知のウィルス感染症」のこと

学生だった頃、目が見えないのに、近所の「教祖様」が書いたお札を眼に貼ると目が見えて、 乗用車で通ってくる眼科の患者さんがいた。

教祖が本当にすごい人だったのか。病院がすごくないのか。その人が嘘付いてるのか。 そもそも「車を運転するのに視力が必要」なんてこと自体が先入観であって、 その患者さんを観測している我々全員が間違ってたのか。

証明しようがないことは、「絶対こうだ」なんて言えないんだけれど。

未知のウィルス感染症報道

陸上長距離・絹川、五輪出場厳しく…謎の感染症完治せず なんて報道があって、朝の医局でちょっと話題になった。

だいたい半年ぐらい続いている、全身を移動する痛みが主症状で、放射線同位元素を使った検査で 骨折が見つかって、「特別な血液検査」を行ったところが、赤血球と白血球とが 変形していて、「未知の感染症が疑われる」なんて報道。通常の血液検査は、 全て正常所見だったらしい。

「中国で発生した未知のウィルス感染症が国内に入って、もう半年近くも治癒しないままそのままになっている」

感染症やってる人達からすれば大問題で、それが本当ならば、それこそ選手生命がどうこうの 話以前に、まずはその人を隔離する騒ぎにならないとおかしい。

「未知」は診断できない

病院で出せる検査と、外注で出せる検査を利用する限りにおいては、 「未知」であって、「一人しか発症していない」ウィルス感染症を診断する ことはできない。

そもそもそれがウィルスによって発生した症状かどうかを判定する方法は ないし、仮に血液から「未知のウィルス」らしきものが見つかったところで、 今度は「そのウィルスが症状を作り出している」ことを証明するのが、 たぶん容易じゃない。

それが「ウィルス」であって「感染症である」ことを疑うときは、 同じ症状が集団発生していて、しかもその患者さんから病原体が 同定されないとか、少なくとも細菌感染が証明されないことを 前提にしないと、まず「ウィルスの検索」が始まらない。

スポーツ選手一人に発症した特殊な症状を前にして、最初からウィルス感染症を 疑うという考えかた自体、たぶん伝統的な西洋医学の文脈からはありえない。

治療に当たっているクリニック

はてな匿名ダイアリーでリンクが張られていた。

整形外科からリウマチ治療に興味を持って、今は何だか赤血球に すごいこだわりを持って治療に当たっておられる人。

伝統的な西洋医療に対しては、だいぶ否定的な立ち位置を取っていて、 「炎症と赤血球との関係」だとか、「培養白血球療法でリウマチを治す」 とか、やっぱり西洋医学の立ち位置とは、ずいぶん異なった考えかた。

赤血球と白血球とが変形する未知のウィルス」というのも、 たぶんこの先生が独自に行っている検査で「赤血球の変形」が 証明されて、その変形が見られたから、「ウィルスの感染症である」と 断じられている印象。

この先生はちゃんと医師免許を持っている人だけれど、今回の診断だとか、治療だとかは、 必ずしも西洋医学の文脈で語られてるわけではないと思うし、新聞は、そのあたりは もっと強調すべきだと思う。

反対側の人にも取材してほしい

読売新聞だから、せめて裏ぐらい取ってると信じたいけれど、 新聞が「未知のウィルス」と書いたんだから、やっぱり 「昔ながらの西洋医学」の立場取る人の意見も聞いて、 報道するときには、両方並べてほしい。

国立感染症研究所の先生方に、「未知のウィルスが中国で発見されましたが、 なんの対処もしないで大丈夫なんですか?」なんて取材して、 その返事を一言載せるだけで、変な憶測吹き飛ばせる。

話を無駄に大きくしてしまう、マスコミが宿命的に持っている性質は、こういうときこそ役に立つと思う。