リソース分配のこと

子供の外傷とか、あるいは溺水とか。連休は「不慮の事故」で運ばれる子供が増える。 今年は休日当直。今から怖がってる。

うちの地域はまだ、かろうじて救急輪番制が機能しているけれど、 崩壊する一歩手前。救急当番を回せてるのは実質3 病院だけだし、 地域でそれなりの数を受けているうちだって「救急指定」だけれど、 全科一人当直。小児科の専門医は、もちろん待機していない。

手に負えないお子さんが来たときは、だから小児科の常勤が待機している病院に 運ぶんだけれど、今県内全域で機能している小児科は、せいぜい3施設ぐらい。 救急を夜間に受けてくれる施設はもっと少ない。ベッドはどこもいっぱい。 この連休も、どうなるか分からない。

死亡率のこと

日本ではなんだか、ゼロ歳から1 歳までの死亡率は世界一低いのに、 1 歳から4 歳までの死亡率がとたんに悪くなって、世界でも下位のグループに 転落するなんて、ニュースで報じられていた。

「そんなはずはない」なんてtwitter でしゃべってたら、 人口動態統計というものを 教えていただいた。

1 歳未満の死亡原因には「先天異常」が最も多い。1 歳以上4 歳未満、 ニュースで報じられていた、日本の小児死亡率が悪くなってしまう年齢層だと、 「不慮の事故」が死亡原因のトップ。 死亡原因の2位、不慮の事故に迫る勢いで多いのは、やはり先天異常の子供さん。

新生児医療に従事する先生がたは、本当にがんばってる。病院に泊まり込みで働くのは、 もはや「前提」になっていて、当直ルールはもちろんあるんだろうけれど、 集中治療室から新生児室に電話入れると、夜中でも普通にみんないる。

大学病院には新生児用の集中治療室があって、子供さんはほとんどみんな、 人工呼吸器が必要だったり、保育器から出せなかったり。 誰かがずっと貼り付いていないと、すぐに状態が悪くなる。

みんな帰らないで頑張ってる。頑張ったからこそ、先天異常を抱えたお子さんは、 日本では「1年」を乗り切れて、それでもやはり障害は重いから、4 年を超えるのは難しいのだと思う。 実際比べたわけではないけれど、先天異常の子供というのは、海外だともっと早期に亡くなってしまって、 そもそもたぶん、1年以上生きること自体が少ない。日本の小児死亡率はだから、1歳未満が 極端に低くて、その次の3年間で悪化してしまうのだと思う。

それでも医師は足りない

小児専門の医療センターは、日本にだっていくつもある。うちの県にもある。

ところがそんな病院は、いつ問い合わせても「満床」。 急患の入院だとか、夜間の診察依頼だとか、お願いしても難しい。

専門センターのベッドは、もう何年も前から埋まりっぱなし。 稼働しているベッドの数は常に1 ケタ。病院の規模自体は、もっと はるかに大きいんだけれど、動かせる患者さんはいないから、急患に対応できない。

小児センターには、そのセンターで生まれて、そのセンターで育って、 専門医が貼り付くことを止めたら、たぶん亡くなってしまうような子供さんがたくさん入院している。

たぶんどこの県でも同じなんだろうけれど、小児の専門施設は、 重篤な先天性疾患のお子さんで、常に満床に近い状態で動いていて、 小児救急とか、他の「重症」にマンパワーを回す余地が残っていない。

専門医の数は限られてて、使える設備も限られている現状で、どういうわけだか、 小児医療に対する補助金ばっかりが増やされた。小児の急患は「無料」で いいことになって、夜中の救急外来には、元気にはしゃぐ子供が増えた。

機会の公平と結果の平等

「生まれてからずっと重症であり続けるお子さん」と、 「昨日まで元気で、今重症になったお子さん」とがいる。

現場回してる小児科医師は限られていて、小児科医療の無料化で、 外来に来る元気なお子さんは、たぶんこれからますます増える。

アメリカは機会の平等を目指した国。子供の医療は割り切られていて、 重篤な先天性疾患のお子さんなんかは、一定以上の治療は行わないらしい。 医療費がものすごく高いから、実際問題、支払いができる親御さんもいないのだろうけれど。

日本はどちらかというと「結果の平等」目指してて、それでも今までどうにかなった。 その代わり、建前「平等」だからこそ、重たい子供に割かれるリソースが増えるほどに、 「平等」の要求水準は高まって、医師の数はあっという間に足りなくなる。

「結果の平等」目指すなら、全ての子供に総合病院を用意しないと、「平等」は実現できない。 今現在、そんな医療を受けているお子さんがいる一方で、そんな医療が必要で、 それを手に入れることができないお子さんが発生しているわけだから。

長野県だったか、小児の専門施設が、救急医療に参加すべきか否かでずいぶん揺れた。 入院しているお子さんのお母さん達が救急参加に反対してて、急患を引き受けるようになったら、 入院患児の介護が薄くなるなんて懸念を表明してた。

連休直前。これから入院が一気に増えるから、それに備えて、何とか帰れそうな人は、 ご家族説得してみんな帰す。高齢の患者さんとか、娘さんが一人で介護してるご家庭とか、 「弱そうな」人からとにかく帰す。

「うちでは看れません」なんて、お話しする前から宣言するご家族もいる。「強い」人達。 30分も話してやっと説得できて、「連休開けたら考えてもいいです」なんて、了解をいただく。