初夢:全共闘オンライン

追記:「不謹慎」との声をいただきましたが、お正月期間すぎたので、再アップしました。 最後のほうにネタバレみたいな「まとめ」を追加しています。

対立軸が多様化して、様々なスローガンとか道徳なんかが無効化していく中、 「世代間の対立」は、これからもまだ有効な対立軸として、むしろその力を強めていく。

日本はお上品な国だから、対立する世代同士が実際に衝突することは無いんだろうけれど、 バーチャル世界にそんな「舞台」ができたなら、盛り上がると思う。

全共闘オンライン

ネットワーク RPG の設定をもっとリアルにして、60年代から70年代の東京を 舞台にすると、きっと面白い。

大学紛争時代の再現。プレイヤーは、大学生であったり機動隊であったり、 あの時代の様々なキャラクターに扮して、当時と同じ世界を歩く。

国会突入とか、安田講堂攻防戦やら神田カルチェラタンやら、 当時のイベントを再現して、「あの頃」に夢見てた年配の人達を、 ネットワーク世界に誘致する。

やるのはもちろん殺しあい

大学生は、投石とか火炎瓶みたいな道具を駆使して、機動隊に立ち向かう。 機動隊を殲滅できたら大学生の勝利。

対する機動隊は、「体制」の維持に全力をあげる。襲ってくる大学生の群れ叩き潰して名声を上げて、 最後に「安田講堂」に学生追い込んで、講堂もろとも学生を殲滅できれば、体制側の勝利。

今はがっちり「体制」に組み込まれてる団塊世代の大人たちは、 昔を懐かしんで新左翼の側に身を投じる。 体制に対して不満持ってる若手世代は、大人を叩ける機動隊に勢ぞろいする。

ねじれた状況の中、世代同士の代理戦争がはじまる。

ルール

サービスにログインすると、プレイヤーはとりあえず、東京の街路を歩くところからゲームが始まる。

道を歩いているとすぐに、いろんなヘルメットをかぶった人が、「自分達のセクトに入りませんか?」 なんてオルグしにきたり、機動隊の人達が、「君も一緒に戦わないか?」なんて入隊を勧めにきたりする。 ここで自らの属する「種族」を決める。「学生」「機動隊」「憂国の士」「マスコミ」の4種族が あって、お互いできることが違う。あとから種族を代わることもできる。

町にはお店とか宿屋、喫茶店やら下宿やら、実世界と同じものは大体そろっている。

品物は、実世界のお金で「平和に」購入することも可能だし、 店を襲って「革命的に」入手することもできる。

たとえば火炎瓶を作りたかったら、ガソリンスタンドでガソリンを購入して、 薬局で脱脂綿を買って作ることもできるし、ガソリンスタンドをみんなで襲って、 大量のガソリンを強奪したあと爆破することもできる。もちろんそれをやってしまうと 当局のマークを受けて、町を歩くだけで機動隊が襲ってくる。

世界には「レベル」の概念がある。たとえば学生ならば、イベントに参加したり、 機動隊を倒したりするとレベルが上がって、入れなかった部屋に入れたり、 自分の「セクト」を作って、オリジナルペイントのヘルメットを作れたりする。

イベントに参加してレベルを上げて、強力な武器を手にして戦ったり、 下宿を借りてうらぶれたり、「ジャズ喫茶」でハイミナールを肴に合唱したり、 いろんなことができる。

学生

この世界でもっとも自由な種族。姿形は人間そのまんまで、力は弱い。

学生になったら、まずは住むところを探して、 「セクトのリーダー」がくれる命令をこなしたり、 闘争イベントの中で機動隊を攻撃したりして、レベルアップに励む。

レベルが上がると、自らのセクトを率いて戦いに参加できたり、今まで入れなかった倉庫を 「バールのようなもの」でこじ開けて、中にあるものから新しい武器を 作れるようになったりする。

レベルの上がった学生はそれだけ強力になるけれど、セクトを率いれば「内ゲバ」 に巻き込まれて殺されるリスクが上がるし、倉庫を開けるのは犯罪だから、 戦いの中で機動隊に倒される危険がそれだけ上がる。

世界ではお金が通用する。プレイヤーは、「平和な」手段でレベルを上げたり、 実世界のお金でたくさんの火炎瓶を購入して、周りの人から支持を集めたりもできる。 それをやり過ぎると今度は、セクトのリーダーから「行動が反革命的だ」と断罪されて、 自己批判を強要された上でセクトから追放されたりもする。

学生は、所属するセクトに応じて「左」にも「右」にも立場を変えられる。 「左」側に属する学生は、バリゲードを作ったり、機動隊との闘争に参加することで レベルを上げていくけれど、「右」側に属する体育会の学生は、逆に左翼学生を 襲撃したり、機動隊に学生の計画を密告したりすることで、レベルを上げる。

セクトを代わったり、立ち位置を真逆にすることだって自由だけれど、 裏切った学生は、もちろんそのセクトから命を狙われつづけることになる。

機動隊

「体制」を守るために生まれた種族。行動は不自由な代わり、力は強い。

機動隊に入隊することを選んだプレイヤーは、警察学校で体を鍛える。

エディット画面を通じて、プレイヤーは自らの体格とか腕力、あるいは使用する武器なんかを 自由に選べる。すべてのパラメーターをマックスにすると、身の丈5m 、 戦車砲を片手に構えてビルを砲撃しても微動だにしない剛力をもったモンスターが作れる。

顔の造形も自由に変更できたり、あるいは「不死」とか「空を飛ぶ」みたいな 能力を付加することもできる。機動隊は、だからよほどのことが無い限り、 学生に負けない。

その代わり、行動は不自由。

町にはもちろん「一般市民」がいて、学生はその人達の隙間から武器を投げてくる。 機動隊の使う武器は強力だけれど、一般市民にかすり傷でも負わせれば、その人達は 厳罰を食うし、その瞬間を「マスコミ」のカメラに捕らえられると、その機動隊員は 「政府の意向を受けて」この世から消されてしまう。

機動隊員の任務は、学生の殲滅。一般市民を守りながら、マスコミのカメラが無いことを 確認しながら学生を追い詰めて、皆殺しにする。非番の時には自由に行動できるけれど、 このときには一切の攻撃ができない。

叩き潰した学生の数に応じて、機動隊の階級が上がる。階級が上がると、 今度は作戦を指示できたり、若い頃の佐々淳行と会話できたりする。

機動隊員は、みんなが「歩く戦車」みたいな人ばっかりだから、 ジョブチェンジはできない。それやると、たぶんパワーバランスが無茶苦茶になる。

エディット画面のパラメーターをすべて「最小」にした機動隊員は、学生と区別がつかない。 彼らは「公安部隊」として、学生の中に潜り込んで作戦を探ったり、マークしていた学生を 下宿で暗殺したりして、ステイタスを上げていく。その代わり、公安は武器も持てなければ 腕力も最小だから、学生にその存在がばれると極めて危険になる。

一般市民

日帝の手足となって無自覚に侵略に荷担する日帝労働者」、 「自らの帝国主義的、反革命的、小市民的利害と生活を破壊、 解体することなしに「革命」を口にする反革命分子」なんて、学生に叩かれる人達。

「平和で安全で豊かな小市民生活」を望み、ムードに流され、案外ケチで、 自ら傷つくことを嫌う。

プレイヤーはこの種族になることはできない。「一般市民」はすべてコンピューターが 作り出した架空人格。話し掛けても返事もしなければ、革命学生や機動隊など、 あたかもそこにいないように振舞う。

一般市民は平和が好きなので、学生が手をつないで「フランスデモ」を行うと、 あとからあとから湧いてきて、何百人もの集団を簡単に作れる。彼らを集めて、 学生同士が「人間の鎖」で彼らを囲むと、彼らをそのまま「人間の盾」として運用することができる。

戦っても、学生は機動隊には絶対に勝てない。「人間の盾」をうまく使って、 機動隊に一般市民を殺害させたり、一般市民の影から機動隊を攻撃するのが基本戦略となる。

機動隊は、それでも戦車砲の直撃ぐらいでは死なない肉体を持っているので、 学生がまともに勝利するのは極めて難しい。

マスコミ

この時代だと「トップ屋」のほうが正しいんだけれど、カメラを担いだ記者の種族。 現状維持を望んでいて、会社の利益を最大にする、「得ダネ」あふれる混乱した 状況が続くことを望む人達。

マスコミは、プレイヤーが新聞者に就職したり、あるいは学生がジョブチェンジしてもいい。 マスコミはカメラを片手に、学生に混じったり、一般市民に混じったりしながら、事件を記録する。

彼らにできることは、「写真撮影」だけ。

機動隊が一般市民に危害を加えた瞬間を撮影できて、 なおかつ殺されずに出版社まで たどりつけたら、その時点で撮影された機動隊員は、部隊から消滅する。

学生はだから、マスコミと協力しながら、機動隊に一般市民を「殺させる」のが最善手となる。

マスコミがレベルアップを図るには、とにかく「スクープ」をものにしないといけない。

機動隊が一般市民を怪我させることなんてそうはないから、彼らの「スクープ」は、 もっぱら惨殺された学生の写真のコレクション。マスコミは、 学生と行動を共にしながら、「いざ」というときに学生を裏切って、彼らの 惨たらしい死にざまをカメラにおさめて、名声を獲得する。

名声の高まったマスコミは、記者、デスク、論説委員、編集主幹とレベルが上がるにつれて、 「カメラ」の威力を高めていく。上位レベルのマスコミは、 写真の編集能力を手にできるから、機動隊員と一般市民がすれ違うところを カメラにおさめただけで、彼らをこの世から消すことができたりする。

その代わり、そこまで行くには何百人もの学生を裏切って殺さないといけないから、 レベルの高くなったマスコミの多くは学生から命を狙われて、 出版社の外を歩くことはできなってしまう。高レベルのマスコミは、 外出するときはかつらにサングラスで変装している。

憂国の士

「右」よりの社会人。少数派を自認していて、体制転覆なんかは 考えていないけれど、世の中がもう少しだけ「右」に傾くことを望む。 混乱を望むマスコミのことを心から憎んでいる。見た目も機能も人間。

政府の「さる筋」の力添えで、彼らがマスコミを殺しても、政府は動かない。 その代わり、学生とか一般市民に手を出すと、その人は機動隊から襲われる。

憂国の士は、みんな日の丸鉢巻に日本刀を携帯しているから、見ればすぐに分かる。 マスコミはもちろん、彼らを見たら逃げ出すけれど、憂国の士は体を鍛えていて、 動作は常にマスコミよりすばやい。

相対した場合、憂国の士はマスコミを斬れるから、 マスコミは、護衛の学生と一緒に行動したり、一般市民を 盾に使って、憂国の士から自らを守る。

学生の攻撃に対しては、「憂国の士」は何もできない。日本ではもちろん、 一般市民が日本刀で誰かを殺すことは推奨されていないから、彼らが学生に刀を抜くと、 それは「犯罪」になってしまう。

彼らもまた、敵対する学生に立ち向かおうと思ったならば、守ってくれる体育会学生と 行動を共にしたり、非番の機動隊員に盾になってもらって、その隙間から刀を振るうしかない。

憂国の士は、マスコミを切り伏せるとレベルアップして、刀の到達距離が伸びたり、 火炎瓶を炎ごと切断できるようになったりする。 レベルが上がると、その代わり規律がどんどん厳しくなって、 低レベルの「チンピラ」ならば、一般市民を一人殺したぐらいでは大丈夫だけれど、 高レベルの「盾の会」あたりになると、かすり傷一つでも負わせると、 リーダーから切腹を命ぜられてしまう。

行動規範のよりどころ

まっさらなファンタジーより、きっとねじれたリアルのほうが面白い。

このでは、たぶん実世界での「体制」側の人たちが「革命」側に、 反体制かこってる若い人たちが「体制」を守る側に集まる。

学生200 人叩き潰した伝説の機動隊員が、実は昨晩実の母親を手にかけてみたり、 あるいは「一般市民」のイメージというのは団塊世代そのものなんだけれど、 団塊の人たちふんする革命学生が、夜な夜な「一般市民の有効利用」について相談したり。

恐らくはいろんな人達が、実世界での自分の価値観とか立ち位置抱えたまま、 ゲームの中では真逆の行動を行うことになる。

世の中にはたぶん、行動規範のよりどころを「固有名詞」に置いている人と、 「属性」に置いている人とがいて、ゲームの中ではたぶん、みんな行動規範を試される。

経済学者の某御大なんかがこのゲームに参加したなら、 きっと自らの固有名詞を貫くんだと思う。

御大は、どこに行っても御大のまま。学生として東大に入れば、 マルクス経済論じる学生に自由主義経済説いて、 セクトというセクトを敵に回して大学を見捨てるだろうし、 町を歩けば「見つけたぞ!」の号令一下、きっと 都内全域の機動隊員が御大叩きに殺到するんだろうけれど、 全世界をむこうに回しても、御大はきっと、自分を貫く。

界隈で親しくしていただいている多くの人達もまた、「固有名詞」が行動規範に なっている人が多い気がしている。若手はみんな機動隊に入って、戦車砲だの 波動砲だの、安田講堂を一発で吹き飛ばしかねない物騒な武器を抱えて、 みんな面白おかしく殺戮にいそしむ。

こんなゲームに梅田望夫氏が招待されたとき、氏はどちらの立場を選ぶのか、 すごく興味がある。梅田氏の行動規範は、どちらかというと「属性」、 「冒険者を鼓舞する男」としての自らの役割に忠実であろうとしていて、 何冊かの本を読ませていただく中で、氏を取り巻く状況の変化なのか、 鼓舞し続けることに倦んだからなのか、 「鼓舞」の対象がわずかに変化しつつあるような気がしている。

ゲーム終盤の安田講堂決戦、味方のマスコミ皆殺しにされて、 モンスターみたいな機動隊に囲まれて、何万人もの学生が、砦と化した安田講堂に篭城する。

実は「公安」として学生側に潜入していた梅田氏は、きっと最後の最後で自ら背負った「属性」に 忠実になって、「時計台放送」のマイクを握る。

時計台から発せられる、全世代に向けた「鼓舞」の声は、その時どちらを支持するのか。 「俺ごと爆破しろ」なのか、それとも「下らない戦いを止めよ」なのか。 是非とも聞いてみたいなと思う。

初夢はこんな社会革命から。。

今年もよろしくお願いします

蛇足:このゲームについて

この不謹慎ゲームの設定は、お互いの種族はどこかと協調することを強制されているにも かかわらず、お互いがレベルアップをするためには、どこかで相手を裏切らないと いけなかったり、自らの種族の「正しい」行動が、協調する別種族からは裏切りの理由になったり して、お互い「健全な相互不信」を続けないと、レベルアップが図れないようになっています。

RPGの定番である「レベルアップ」もまた、それを行うことによる不利益が発生する 構造になっていて、レベルを上げること、ゲーム世界に長くとどまることそれ自体が、 必ずしもプレイヤーにりするわけではないルールにしています。

このあたり、ゲームデザインなどやったことのない素人考えなので、ルールの「穴」など 教えていただければ幸いです。

このゲーム世界では、どの種族が勝利したところで、世界は何も変わりません。

仮に学生が機動隊を殲滅しても、政府にはまだ自衛隊もありますし、残った種族は 現状維持を望んでいるので、どこかのタイミングでマスコミが裏切り、 機動隊がそれ以上減らなくなります。

機動隊もまた、何もしないで座っていれば、それだけで事実上無敵なので、 要するに革命を望む学生達は、どう頑張っても「革命ごっこ」以上の行動は とれないような設定にしています。実世界と同じ。

このルールで学生側が勝利する手段が見つかるならば、多分それは一般市民の 「運用」に鍵があるはずなのですが、世の中変わるアイデアにつながるのかもしれません。

実世界のこと考えるのに、こんな極端な世界での思考実験を行ってみるのも、 世の中斜めにみるいい機会なんじゃないかと思います。

「こうすれば勝つよ」みたいなアイデアがあったなら、ご教示いただければ幸いです。