イベントドリブンは勘弁してほしい

連休中日。外来は毎日大賑わいだけれど、検疫官の人たちが過労で倒れそうな 勢いで頑張っているからなのか、今のところはまだ、新フルエンザ発生、という話は伝わってこない。

人も増やすみたいだけれど、空港は、今の時点ですでに限界超えているのに、 このままのやりかたを引き継ぐと、ゴールデンウィークあけの入国ラッシュは大変なことになる。 実際のところ、事態はまだ始まったばっかりで、連休あけて、むしろ感染可能性を抱えた人が 入国するのはそれからなんだけれど、ぎりぎりの体制がいつまで続くのか、 検疫官の人たちは頑張っているけれど、上の人たちは、いつまで「頑張る」を 続けるつもりなのか、よく分からない。

縦深は大切

実は政府に何か策があって、どこかで「こういうこともあろうかと」みたいな演出狙ってるならいいんだけれど、 むしろ何となく、「日本だけは大丈夫」的な、上の人たちが根拠のない信念に固まっていそうなのが怖い。

空港レベルで食い止めるやりかたは、塹壕一本に全てを賭ける大昔のやりかたで、縦深を考慮していない。

潜在的感染者が少ないならそれでもいいかもしれないんだけれど、このまま行くと、 一本しかない防御ラインがやぶられたその時点で、そのことが大問題になる。ある意味 破られて当然の検疫ラインなのに、大臣が国会で責任を追及されたりだとか、空港の検疫官が メディアから叩かれたりだとか、ろくでもないことを妄想してしまう。

発熱外来をきちんと準備している自治体はまだ少なくて、少ないまま、このままずるずる様子を見るのは よくない気がする。そろそろ縦深防御に移行すべきなんだと思う。

空港レベルでは住所確認と自宅安静のお願いに徹して、 よっぽど状態の悪い人以外はスルーして、あとは地域の発熱外来が隔離を引き受けるようなやりかた。

地域の役所は、お金がかかるからなのか、「空港の皆様のがんばりを信頼していますから」なんて、 発熱外来の設置を回避しよう、回避しようとしているように思える。

「身内にアメリカ帰りがいて、インフルエンザっぽい症状が」なんて人は、今でも普通に病院に来る。 ちゃんと保健所に電話して確認しているのに、近所の病院に行きなさい、なんてアドバイスされる。 今はまだ、日本国内には「新フルエンザはいない」ことに なっているから、役所的には、市中病院で「問題ない」のだと。

状況を動かすのは怖い

現場はたぶん、みんな怖がってる。新フルエンザ疑いの患者さんを引いてしまったなら、 下手すると自分が、当直あけの記者会見で、全国に間抜け面をさらすことになる。 メディアの人には突っ込まれるだろうし、ただでさえ忙しいのに、日常の業務は回らなくなる。

最近アメリカに行ってきた人なんて、無数にいる。その人たちの友人だとか、身内の人は、もっと多い。 誰かが熱を出して病院に来るだけで、救急外来は恐慌状態になる。新フルエンザは今のところは 弱毒みたいで、本物の患者さんが来たところで、たぶん対応は難しくないんだけれど、 病気それ自体よりも、「病気で食べてる人たち」との対応が恐ろしい。役所はきっと、 そういうところも含めて「現場任せ」だろうから。

受ける側としては、とりあえず弱毒っぽいという見込みが立ちつつある今なんだからこそ、 「戒厳令の練習」だとか、「地域非常事態宣言の練習」だとか、発熱外来の設置をやってほしい。 お金もかかるし、生活が不便になるけれど、今の空気と、それに見合ったリスクと、得られるものは十分引き合う。

検疫官の人たちが倒れるまで使い潰されて、検疫をくぐった人の流れ対しては実質無策で、 国内の体制もぐだぐだなまま、「落ち着いちゃいましたね。よかったよかった」で終わるのは最悪だと思う。 これだけのことが起きたのに、有益な経験が一切得られない。

むしろ弱毒っぽい今だからこそ、政府の人たちが断を下して、空港レベルでの検疫が限界であることと、 迎え撃つ方針というか、戦略の変更を宣言して、政府の名前で、各地方自治体に発熱外来設置を 指示してくれると、現場の負担は減って、きっといろんな経験を積める。

イベントドリブンは勘弁してほしい

第二次世界大戦の昔、上の人たちは、状況の変化に対して実質なんの決断も下すことなく、 現場が疲弊しきるまで同じことを繰り返させた。無理が来て、状況が崩壊すると、 なぜか「やれるだけのことはやった。しかたがなかった」と総括して、 潰れた現場を英雄に祭り上げて、自分たちは同じ場所に留まった。こういうの繰り返しちゃいけないと思う。

今はむしろ、一刻も早く新フル陽性が確定してほしい。陽性の確定診断が発熱外来スタートの根拠になってしまっている以上、とにかく誰かが「陽性」をコールしてくれないと、物事が動かない。

決断には責任が伴うから、政治の人達はそれをしたくないんだろうけれど、こういうのを「イベントドリブン」で決断回避するのは、やっぱり違うと思う。患者が出たから、「仕方なく」全てが動くやりかたは、たぶん役所の上のほうにいる人達は、「いい考え」だと思ってるんだろうけれど、このやりかたは、現場がすりつぶされる。

うちの地域では、発熱外来は「志願制」になっていて、ウィルスの毒性が明らかでなかった当初、 地域に60人以上いる開業医の人たちで、志願したのは10人ちょっとだった。

状況が動くと、いろんなものが見える。日頃「患者様のために」なんて、 診療報酬あげろとか、保証充実しろだとか怒鳴ってる人たちが、実際に「患者様のために」働く機会が やってきて、実際どう振る舞ったのか、状況を動かして、記録して、いろいろ見るのに、 今はとてもいい機会なのだと思う。