鎮火のための爆破メソッド

原油火災を消火するには

イラククウェートに侵攻したあと、撤退したイラク軍は、油田に火をつけた。

燃料の上におきた火事。こうなると、水を撒いたって消えない。

こうした火災を消すのには、爆薬を使う。

炎上している原油井戸の周囲に爆薬を置いて、炎ごと爆破する。

爆発の瞬間、燃料と酸素と、両方の供給が一瞬途絶えるから火は消える。 そのタイミングを見計らって、井戸のバルブを閉鎖すると、消火できるのだという。

炎を維持するのは、意外に難しい。

  • 燃料や酸素の供給が少なすぎれば、火は消える
  • 燃焼速度が上がりすぎたり、酸素の供給が過剰になったりすれば、炎は「爆発」して、燃焼を維持できない

炎を維持するには、燃料の供給や燃焼速度を、一定の範囲内に保ちつづけないといけない。

「爆発」鎮火する掲示

ずいぶん前、2ちゃんねるにペット大嫌い板、通称「動物虐待板」という掲示板があって、 動物虐待を肯定する「黒ムツ(黒いムツゴロウさん)」さんたちが、「愛誤(動物愛護)」の人達と、 24時間ぶっ通しで罵倒合戦を続けていた。

「臨界」の範囲なら、燃焼温度は高ければ高いほど面白い。

動物虐待板は、人間の悪意だけでディベート合戦を楽しむ場所で、 「ネタをネタとして」楽しむ空気。

状況が変わってしまったのは、本当に「猫殺し」をする人が出てくるようになってから。

逮捕者が出る前からいくつか出回っていたけれど、あれで一気に熱が冷めた。

「黒ムツ」だって、みんな「黒じゃない」と分かっていたからこそめちゃくちゃなことが言えたし、 掲示板もいい感じに炎上を続けた。

ところが、「黒ムツ」の中に「本物の黒」が一人でも入ってしまうと、 あとはみんな同類扱い。

本当の「黒」になんか誰もなりたくなかったから、あの掲示板からは一気に人が減ってしまって、 当時の雰囲気なんてほとんど残っていない。

グロ画像掲示板。あれも「世の中には殺人現場をおさめた動画があるらしい」という都市伝説があって、 あたかも「ツチノコ探し」みたいなノリで、「俺見たことある」とか、 「ロシアのサイトに公開されたらしい」とか、そんな楽しみかたをするところだった。

戦争が起きて、生きてる人の首を切られる動画が当たり前のように全世界に発信されて、 もうグロ画像なんて珍しくも何ともなくなってしまって、みんなの熱は冷めた。

Dan's Gallery of Grotesque やFreak Show Case、Ogrish やGoregasm 。 海外のグロ画像サイトのフォーラムで、 海を越えた同業者同士の活発な討論会が行われたりしたのも、今は昔の話。

掲示板鎮火のための爆破メソッド

炎上したblog や掲示板の鎮火は難しい。

「無視する」のは最上の方法の一つだけれど、後に残るのは焼け野原。 どうしたってダメージは残るし、そこから何事もなかったように再生できる人は限られる。

水をかけるのは最悪。炎上の勢いが強くなると、筆者側がかける「水」すらも燃料になってしまう。

「炎上」を維持するためには、炎上に参加するみんなの罪の意識が、 ある一定の「グレーゾーン」に保たれていることが必要。

本物の炎と、原理は一緒。炎を消すには、燃焼温度を炎が維持できないぐらいに下げてしまうか、 燃焼速度を上げて、「爆発」にもっていってしまうか、どちらか。

炎上に参加する「みんな」は、グレーの範囲で限りなく「黒」に近い発言をしようとして競い合う。 鎮火をしようと思ったら、この温度を一気に上げて、 みんなを「黒認定」してしまうのがひとつの方法になる。

  • 掲示板が誰かの中傷などで盛り上がったら、筆者自らが自分を罵倒する競争に参加して、 「みんな」が引いてしまうようなひどいことを積極的に書き込む。 祭の場に「こいつと同類扱いされたくない」という空気が流れたら、自然に鎮火していく
  • 医師のWeblog での主張に反対意見が殺到したときなどは、相手を論破しようとする代わりに、 話題を筆者の人格否定とか、下衆な中傷発言などに持っていく。医師なんてみんなお上品だから、 流れが下品になれば、みんな去っていく
  • 集団の中で誰かを保護しようと思ったら、その場の制空権(空気の流れを作る権利)を持っている人が、保護したい誰かに関するひどい陰口の口火を切る。それが十分に「ひどい」話なら、 誰もそれ以下にはなりたくないから、自然にみんな口を閉じる

実績はある。「上手くいった」という伝聞いくつか。自分でやったこと、何回か。

誰かの悪口とか、「炎上」というのは一種のチキンレースで、 「グレー」が「黒」に変わる境界、その境界にもっとも近づいた者が、 その場の空気を決める。

残念ながら、罵倒される側が「白」の立場に固執していては、 いつまでたっても制空権が取れないから、 炎上はいつまでたっても止まらない。

制空権を取るというのは、その場の「悪意の引き受け手」になること。

匿名世界でそれをやるのは簡単だけれど、実世界では相当に難しい。 「公平」ルールが蔓延して、弱者の権利なんていうものが強い昨今、 それはますます困難になっている。

絶対的な悪人、あるいは権力者がいて、それに対する反発でみんなまとまって、 その「悪」を何とかするというのが昔の学園ドラマの基本だったけれど、 今の公立学校にそんな「悪」が君臨したところで、朝日新聞への投書一発で即死。

みんなそれが怖いから、「悪意の引き受け手」なんかになれず、燃焼速度がいつまでも 臨界以下にしかならないから、一度火のついた「いじめの炎」を止める術がない。

やっぱり「みんな公平」という概念は、発明としては今一つないんじゃないかと思う昨今。