夢見る企画屋

えらい人の思い出

ずいぶん前、東北に飛ばされていたときに、大手銀行の会長さんを診察したことがある。

田舎の一人当直。

50も半ばを越えたようなお供の人を3人ほども従えた、ずいぶん立派なおじいさんだった。

高齢でもあり、一応入院を勧めたのだけれど、断られた。

「車であと1時間も行けば、「私の造った病院」があるから、入院が必要なら、そこでする。」 「そこなら、私の名前でいつでも入院できるから、絶対大丈夫。」

病院の表玄関には、貫禄のある大きな車。病人を運ぶには十分だったけれど、そこは病人。

「ああそうですか」と返すわけにもいかず、まずは当直医同士で連絡をとりあうことに。

ところが相手が電話に出ない。

いろいろ聞いてみると、「私の造った病院」というのは、 ずいぶん前に開業した都市部の診療所で、その人が開業するとき、 銀行がお金を貸したらしい。

「あの院長は、私の話なら必ず従うから」

あれこれと電話を続けていたみたいだけれど、結局その人はつかまらずじまい。 「あの院長」に毒づきながら、しぶしぶ入院に同意してくれた。

「お金持ちって、時々かっこ悪いな」

社会的にも、経済的にも、自分なんかとは比べ物にならないぐらい「上」の患者さんだったけれど、 そんなことを思った。

愛犬団体の話

捨て犬保護団体の代表の会長さんが、最近迷走しているらしい。

広島で大規模な捨て犬騒動があって、その団体の活動が、マスコミに広く報道されて。

寄付が相当集まったのだそうだ。

寄付金で犬は保護され、近隣のボランティアの家へ。

事件の発端となった場所からは犬がいなくなり、めでたしめでたし…になるはずだったのが、 最近になって、その会長さんから「犬を返却するように」との命令。 「なぜ今になって?」と尋ねても、理由を教えてくれないとか。

どうも、マスコミ報道の第2波がきて、捨てられた犬が大量に集められている「絵」が欲しくなったらしい。

犬の本拠地は広島。

今度は、その犬の引き取り手を探しに、犬ごと東京→青森→北海道へとキャラバンをする計画が持ち上がった。

  • なんでそんなことを?
  • 犬の安全管理は?
  • 移動手段の手配は?

ボランティアの人達からの疑問が上がる中、キャラバンの開催日だけが決定され、 指摘された問題点への返答は無し。

会計報告もグダグダ。団体崩壊寸前。

この会長さんの「夢」というのは、愛犬保護団体の活動を続けていって、捨て犬のための シェルターを造ることだったのだそうだ。

  • 当面の目標は、広島の犬の救出
  • 将来の目標は、お金を集めてシェルターを造ること

活動が報道されて、予想以上に寄付金が集まって。

もしかしたら、将来の目標が予想以上に近くに見えて、 今やらないといけないことが、見えにくくなったのかもしれない。

行き当たりばったりのかっこ悪さ

  • 銀行の会長は、何年も前に終わった成果、それも個人のお金でなくて、銀行のお金で成し遂げたものを、 「私の病院」とこだわりつづけて、見知らぬ病院でドツボにはまった
  • 愛犬家団体の会長さんは、ちょうど寄付金が集まった頃から計画が迷走して、その過程を 誰にも公開しようとしなかったから、仲間からの信頼を失った

どちらの人も、なんだか「行き当たりばったり」で、かっこ悪かった。

銀行家の人。何年も前の話を蒸し返す前に、たぶん他の選択肢はいくらでもあったはず。 頼りなく見えたかもしれないけれど、目の前には病院の専門家もいたわけで。

「年寄りには君じゃ不安だからさ、どこかもう少しいい病院、紹介してくれないかな?」

こう言ってくれれば済んだ話。もっと「いい病院」を探して、救急車の移動を手配したら終わり。 そのときはこちらの腹も立つだろうけれど、意思表示がはっきりしている人の応対は、非常に簡単。。

愛犬家の会長。なにか腹づもりがあるならば、それをさっさと公開したってよかったのだと思う。 あるいは、全面的にマスコミに乗っかって、もっと大規模にお金を引っ張って、 一石二鳥を狙うとか。

「行き当たりばったり」には2種類ある。

  • 悪いやりかたは、遠い夢だけあって、そこにたどりつく道筋が見えない。 道がないからフラフラするし、不確定要素が入ると、余計に迷う
  • いいやりかたは、確実な道筋を歩くことを考えていて、不確定要素が入ると、 それを含んだ新しい道筋をすぐ考える。大事なのは「確実な道筋」だから、 時として目標は変更される

過去の夢にこだわって迷走するのは、単なる迷惑。

計画がコロコロ変わっても、その変遷の中に「計画」が見えれば、その企画に乗っかる人は 必ず残るし、きっと新しい仲間も増える。

企画力のかっこ良さ

学園祭実行委員会の頃。

どこの大学にも「アイドル担当」という世襲制の仕事があって、これは歴代の体育会キャプテンの仕事。

たまに「今年の学園祭はお笑いタレントを呼ぼうか?」なんて 話が出ても、「○○先輩の目の黒いうちは、アイドルを呼ぶのは本学の規定事項だ」と会議の席で 机を叩かれる。

アイドル担当の仕事というのは、ステージ企画一般。最初にやるのが、マネージャーさんとの交渉。

お金のない大学だったから、まだ売れていないアイドルを「目効き」してくるのがアイドル担当の 重要な職務。先輩方がかつて、本当に「大物」を当ててしまったときがあった。

マネージャー:うちの○○は、今だと2000人以上集まりますから、警備の人間を最低20人はそろえて下さい。 アイドル係:この地域の田舎度を考えれば、集まるのはせいぜい数百人単位だと思います。いずれにしても、 ステージの位置を図書館前に変更して、空間を空けます

こんなやりとりがあったらしい。ふたを開けてみれば、アイドル担当の先輩の読みどおりだったとか。

両方ともプロ。アイドルの人気がどうとか、何を歌うかとかじゃなくて、 どうやったら安全なステージが運営できるのか。そのために必要なのは、アイドルの資質とか、 人気とかではなくて、「どれだけの人数が集まるのか」の読み、その一点。

人数さえ決まれば、あとはそこから計算が進む。どのぐらいのステージを用意して、 PA はどの程度の規模にすればいいのか。そんな規模のステージを安全に運営するには、 何人の人間を集める必要があるのか。

相手のマネージャーさんは、誰でも知っているようなアイドルを抱える事務所の人だし、 こちらはいくら20年近い世襲の伝統があるとはいえ、大学3年生の学園祭実行委員。

立場は全然違うけれど、お互いの企画力、 計画力を信じた会話というのは、なんだかかっこ良かった。

夢と企画は両立するのか?

捨て犬保護団体の話の続き。

東京→青森→北海道へと犬のキャラバンをする計画を出したのは、どこかの学生さんなのだそうだ。

企画が出たときから、反対意見続出。

対案も、たくさん出たらしい。

  • 関西圏で犬を連れ回せば、安全なんじゃないか?
  • 広島の犬でなくても、東京にも青森にも捨て犬はたくさんいるんだから、同じ団体の主旨で、 捨て犬の引き取り会を開けば、同じ結果になるんじゃないか?

完全に部外者の邪推なのだけれど、こうした「現実的な」提案というのは、 たぶん主催者の「夢」を汚すものとしか受け取られないんじゃないかと思う。

過去にそういう経験、何回か。

中学校以降、学園祭委員会一筋だったから、「○○人規模の祭を開きたい」 と言われれば、まずこんなことが思いつく。

「模造紙○枚、ガムテープ○巻、テント○張り、パイプ椅子を最低○脚レンタルして…」。

こういう計算、相当得意。

「相談に乗ってください」と言われれば何でもくちばしを突っ込んだけれど、 なぜか「この祭の意義は…」とか、「目標は…」とか、企画屋からみると「どうでもいいこと」にこだわる人、 けっこう多くて、どうでもよさそうな顔をしていると、なんだか空気が悪くなってくる。

手を抜いてもかまわないところで手を抜けなくてドツボにはまる「誠意ある医師」とか、 「患者さんのため」に家族を地獄行きにする「誠実な先生」なんかを見ていて、 自分からはそうした立場に違和感を覚えたり、相手方からは「お前もっとまじめにやれ」と怒られたり。

目標と計画。夢と現実。

なんだかいつも宗教戦争

分かりあえない対立概念なのか、それとも単純に慣れの問題なのか?