動作が意識に先行する

  • 「動作には文脈があって、身体というものは、頭から、あるいは環境から入力された動作文脈に対して予測された次の動作を返す、 一種の推測変換エンジンである」と仮定する。
  • 生まれたばかりの生き物は、恐らくは空っぽのデータベースしか持っていない。人間の子供は、だから手足をばたばたと動かして、 試行錯誤の結果として、はいはいとか、歩行といった動作を獲得していく。この獲得は、動作の拡張というよりも、むしろ 無駄な動作をそぎ落とすことによって行われる
  • 様々な動作には、それに意味があったのかどうか、意識による重み付けが行われる。どこかにたぶん、状況ごとに推測されるべき、 「次の動作」のデータベースみたいなものがあって、意志だとか、外界からの環境刺激がそこに入力されると、 身体は、それまでの動作文脈から推測された、次に来るべき動作を返す。「推測」という工程を入れることで、動作が先、 意識はそれを追認するという状況が生まれる
  • 動作の結果は、今度は意識によってそのふさわしさが後付で評価されて、データベースの重み付けが変更される
  • 身体にとっては、意志と環境は、地続きのものとして解釈され、区別されない。お腹がすいたという刺激も、雨が不快だ、 道がぬかるんでいる、岩場の上にいる、怪我で足が動かないといった情報も、すべては文脈として解釈され、今までに行われた 動作と、新しく入力された情報が文脈となって、次に来る動作が推測され、表現される

こういうの読みたい

  • 動作が主役になる状況を仮定しないといけない。敵がいて、味方がいる。戦闘が必要。ハインラインの「宇宙の戦士」世界がそのまま
  • 脊髄部分に巨大な動作文脈推測エンジンを積んだ、パワードスーツみたいな謎メカを仮想する。これが戦闘機であったり、車輪のついた乗り物になると、 動作の意味あいがずいぶん変わってくるから、動作の物語には、やっぱり人型メカが欠かせない
  • 工場からロールアウトしたばかりのこの機械は、乗っても動かない。動作データベースは空っぽで、操縦席には操作パネルと、 操縦者の意識を快、不快の形で読むためのセンサーが組み込まれている
  • 機動歩兵の新兵は、新品のパワードスーツを、自分で教育しないといけない。「はいはい」から始まって、よちよち歩きを獲得して、 データベースが充実していくほどに、パワードスーツは身体の延長となって、自身と機械との境界はあいまいになっていく
  • 新兵である主人公に、親友でも恋人でも、適当に近しい人物を仮想する。訓練を受けて、お互いがパワードスーツを身体の延長として 操作できるようになる。たとえば戦う前に、お互いの拳を打ち合わせるとか、そういう動作を癖として設定する。 で、新兵段階を終えて、舞台を戦場に置き換えてしばらくして、この人物を舞台から削除する

空っぽの機械にできること

  • 舞台には、主人公と、主人公の乗ったパワードスーツと、もう一体、空っぽのパワードスーツが残る。ただの機械だけれど、 脊髄部分には、いなくなった相手の動作文脈が、データベースの形式でそのまま残っている
  • 操縦者がいなくても、電源を入れれば、データベースは外からの刺激に応じた「次の動作」を、推測して返す。 主人公が、拳を空っぽのパワードスーツに向けると、操縦者がいなくても、空っぽの機械は、自らの拳を打ち返す。 それはスーツの外部センサーが、友軍の拳を認識して、データベースがふさわしい反応を返しただけのことだけれど、外からみると、 あたかも空っぽの操縦席に、いなくなった誰かが生きて乗っているように見える
  • 空っぽのスーツは、あるいはそのまま戦えるかもしれないし、戦闘の最中、でくの坊みたいに突っ立っていながら、 主人公が撃たれる状況にあって、敵の弾丸と、主人公の危機とをスーツが認識して、主人公をかばってみせるかもしれない

その先

  • こういう乗り物は、徹底的に鍛えると、人間が操縦する必要がなくなってしまう。中の人は、戦う意志とか、 前に進む意志を機械に入力するのが仕事のすべてになって、あとは周囲の環境と、人間の意志との相互作用から、次の動作が推測されて、実行される
  • スーツの育成段階を通過したあとは、人間の仕事は、意志の生成と、意識による動作の評価が全てになる。この状況だと、 もしかしたら戦闘中にパイロットが戦死しても、機械はそのまま戦いを続ける。基地に帰還して、コックピットを開けてみないと、 中の人物が生きているのか死亡しているのか、外からみただけでは分からなくなるかもしれない
  • 人間と機械との境界があいまいになると、あるいは「他人のスーツを着ること」が、意識の変容を生む。 「戦死したものすごく強かった人」が使っていたパワードスーツに新兵を乗せると、外からみると、スーツは正しい動作を行っているのに、 パイロットにとってはそれが「不快」として感覚される。パイロットの意識によるフィードバック経路を遮断すると、もしかしたら 「靴に足を合わせる」現象が発生するかもしれない
  • 新兵は、最初の頃こそあらゆる動作に違和感を覚えるだろうけれど、違和感が機械に伝わらないことを認識して、それを受け入れてしまうと、 今度はもしかしたら、機械の動作を「快適である」と認識しはじめる。全ての動作が「快適」になったとき、動作の評価装置であるはずの 新兵の意識というものは、なくなった歴戦の勇士のそれと、区別がつかなくなっているかもしれない
  • 考えかたが危険すぎて除隊処分になった、狂戦士みたいな兵士が駆っていた機体を新兵が引き継ぐと、やはりこうした違和感が発生する。 今度は逆に、フィードバックループを切らないでおいたら、たとえば「動いているものを見たらすぐに引き金を引く」という、狂戦士の動作が、 まだ引き金を引くのにためらいのある新兵の意識と衝突することになる
  • 衝突を通じて、新兵は狂戦士の意識に乗っ取られてしまうのか、それともパワードスーツに対する違和感からものすごい平和主義の人物に なってしまうのか、あるいは司令部の側で、こうしたフィードバックループに介入したら、兵士の意識はどう変化するのか、いろいろ 面白いと思う