恋愛シューティング実装案

カトゆー家断絶の中の人が、twitter で「恋愛SLG 」 という言葉を使っていた。「恋愛STG」はないのかな、と思って検索したら、案外なかった。考えた。

状況設定

AI とプレイヤーとが共同して、コミュニケーションしながら敵のボスを破壊する。

パイロットをプレイヤーに設定するのは難しい。 それは伝統的なシューティングの文法だけれど、それをやってしまうと、 「機械に任せるぐらいなら自分で避ける」というプレイヤーの声を無視できなくて、 AIを導入する必然性がなくなってしまう。

「AIとの共同戦闘」という状況にある程度の必然性が出てくるのは、 人工衛星のオペレーション。

地球に近いとき、人工衛星は、 ある程度のマニュアル操作が可能だけれど、火星探査機のプロジェクトになると、 地表から信号送って、探査機が応答するのに8分近くかかる。リアルタイムの操縦なんて 望めないから、人工衛星は周囲の状況を読んで、ある程度自分で行動しないといけない。

シューティングゲームのお約束で、「敵」は地球外から攻めてくる。 地球守ってた軍隊は、とりあえずなす術もなく破壊されてしまう。

自機になるのは、人類の最後の希望託した無人戦闘機。プレイヤーは開発担当の科学者となって 地球に残り、自機の操縦と、搭載されたAIの教育とを担当する。

ゲーム開始の段階では、敵兵器に関するデータとか、 敵の思考回路みたいなものは何一つ明らかになっていない。 AI は、最初はほとんど白紙の状態で、敵との戦いを通じて「教育」する必要がある。

ゲーム開始直後、自機が地球軌道近くにいるときには、プレイヤーは普通に自機を操縦できる。 軌道上で、敵の最前線部隊と戦いながら、プレイヤーは自機を操作して、同時にAI を教育する。

敵の本拠地と目される場所は、火星軌道の先。自機が地球を離れていくと、 操作にはだんだんと遅延が生じて、敵弾を避けたり、適切なタイミングで武器を使ったりといった ことが難しくなる。プレイヤーはだから、後半面になると大雑把な操作しかできなくて、 最後はひたすらに、AIに応援メッセージを送ることになる。

プレイヤー設定

8方向レバー3ボタン。自動連射のショットボタンと、「良し」、「ダメ」のメッセージをAIに送るためのボタン。

ボムはAIの判断。プレー開始前にAIを選択可能で、臆病なAIを選ぶと、ちょっと危険な状況になると ボムを消費されて、大変だったりする。

前半面では、プレイヤーは自機を操作しながら、AI の教育を行う。AI は自動的に弾避けを 行うけれど、それが戦略的に正しければ「良し」を、間違っていれば「ダメ」のメッセージを送って、 犬に芸仕込むときみたいに、AI に正しい避けかたを教えこむ。

AI には「機嫌」パラメーターがある。「良し」を連発すると元気になって ショットのパワーが上がるけれど、「ダメ」を連発すると拗ねたり落ち込んだりして、 ショットのパワーが激減したり、機体制御を放棄したりする。

後半面でAIが拗ねるとゲームがつらくなるし、ほめちゃいけないところでAI の御機嫌を 取りすぎると、AI はどんどん馬鹿になる。

機嫌がよくなりすぎたAIは、どうでもいい場所で勝手にボム消費したり、 ボスを目の前にした頃になって息切れしたりする。 教育も大切だけれど、テンション管理はもっと大切。

AI の設定

AI のオート避け機能は、たとえば自機の周囲 10 ドットに「縄張り」を設定して、 その中に弾が入ったら発生する。一定の待ち時間のあと、進入方向の反対側、 あるいは直行する方向に、一定距離だけ、自機が勝手に移動するイメージ。

ゲーム開始時点で、AI は複数の候補から選択可能で、それぞれのAI には「性格」が設定されている。

「臆病な」AI は、「縄張り」が大きく設定されていて、敵弾が近づいたらすぐ逃げ出す。 プレイヤーは教育を通じて、AI に勇気を持たせると、縄張りはだんだんと小さくなって、 「ドット避け」ができるようになる。

「おっとりした」AI は、敵弾が縄張りに入ってから、自機が動作するまでの時間が遅い。 動きが緩やかだから、こんなAI には、人間側プレイヤーの意志を伝えやすいけれど、 後半面になるとつらくなる。反応時間が早くなるように鍛えないといけない。

「方向音痴」の AI は、敵弾が近づいてきたとき、正しい方向に避けられない。 正しさは、周囲の弾幕密度と、プレイヤーがレバーを倒した方向を利用して、 ベイズ予測みたいなやりかたで決定されるけれど、実際の自機の動作は、 ここにランダムな偏差が加えられる。鍛えると、だんだんと偏差が減って、 正しい動きができるようになる。

「がさつな」AI は、敵弾を避けるときの動作量が大きい。 ちょっと避ければ十分なところでも大きく動いてしまうから、地形に追い込まれやすいし、 プレイヤーの意図を伝えにくい。鍛えると動作は必要最小限に、「おしとやかな」AIに成長する。

AI には他に「切れやすさ」と「テンションの高さ」というパラメーターがあって、 それぞれ「駄目」を連打されたときの拗ねやすさと、「良し」を連打されたときの テンションの上がりやすさに相関する。両方高いと、キレやすくてハイになりやすい、 すごく扱いにくいAI になるし、両方低いと、素直な性格になるけれど、 いざというときに「良し」を連射しないと、ショットパワーが上がらなかったりする。

こんなパラメーターを AI に実装すると、「おっとりして方向音痴」、 「気が回るけれど落ち込みやすい」、「臆病な小動物」、 「無個性」みたいな、AIの性格設定が作れる。

共感要素

作戦機体の生還は考慮されていない。

自機には片道分の燃料しか積んでいないし、ラスボスは固くて、 最後は自爆しないと倒せない。

プレイヤーは、AI とコミュニケーションしつつ、AI を成長させつつ、 事態をAI にとって最悪の状態へと追い込んでいくことになる。

AI の「個性」は、戦いの状況と、プレイヤーのボタン操作により創発され、 変化する。データは常に地球側に送信されているから、 ゲーム開始直後に自機が撃墜されたときには、 AI は地球でよみがえり、事実上不死になっている。

ゲームには、いくつもの「帰還不可能ポイント」が設定されている。

面が進むほどに電波は遠くなって、データにはエラーが生じてしまう。 帰還不可能ポイント越えるごとに、「五体満足で帰れる」状態は「首から下を捨てれば帰れる」になり、 そのうちデータを満足に送ることもできなくなって、最終面に入った頃には、 撃墜されるとAI の個性は全て失われ、「死んで」しまう。

プレイヤーが熟達するほどに、自機AI の生還可能性は落ちていくけれど、 AI はもちろんそんなこと知らないから、叱られれば落ち込んで、 ほめられれば機嫌を直したり、喜んだりはしゃいだりする。

最後は「2010 年」風味。

硬すぎるラスボスを前に、「博士」であるプレイヤーは、AI に「特別な攻撃」を指示する。

直前になって、AI からは最後の通信が入る。

「博士。私は死ぬのですか ?

プレイヤーが「そのとおりだ」と答えれば、 AI は「本当の事を教えてくれてありがとう」というメッセージを 残して、笑顔で自爆する。

プレイヤーが「そんなことはない。データは回収できる」と嘘をつくと、 AI は「博士を信じています」なんて、泣き笑いの顔を見せながら、やっぱり自爆する。

言葉を介さないコミュニケーションのこと

言葉や台詞などなくても、感情の交換は十分にできると思う。

機械とのコミュニケーションを物語の核にするやりかたとして、人型ロボットを 登場させるとか、喋る戦闘機を設定するのは分かりやすいけれど、つまらない。

感情は本来、相手から伝えられるものではなくて、自らが対象に「投影」して、「発見」される。

状況設定さえ上手にできれば、メーターの数字やボディのきしみ、動きの切れ、 ショットのパワーみたいな要素を変化させるだけで、プレイヤーはそこに「感情」とか「根性」 みたいな表情を読み取って、機械とコミュニケーションをはじめる。

火星探査プロジェクト「マーズポーラーランダー」は、探査機が着陸寸前まで行ったのに、 火星上空で故障して、墜落した。NASA の人達は、必死になってポーラーランダーの信号拾おうとして、 どこかの天文台が、ありえないタイミングでポーラーランダーの「声」を受信した。

結局それは間違いだったんだけれど、あのときの NASA の技術者は、 絶対にポーラーランダーを擬人化して考えてた。墜落して、 半身不随になりながらも火星の地表から地球を探して、 必死の思いで「自分は生きてここにいる」というメッセージを送信する ポーラーランダーを想像して、泣きそうな思いで通信ログ読んだと思う。

このゲームは終盤、最後の帰還不可能ポイントを越えるところで撃墜されれば、 プレイヤーはもう一度、AIと最初からやりなおせるし、自爆命令なんて出さずに済む。 全人類の運命と、AI の運命との選択を、プレイヤーがわずかでも悩んだら、 きっと面白い体験ができるはず。