中国の特番を見た

NHKの番組。中国の会社が、アフリカで携帯電話の電波塔を建てていた。以下感想。

気合いと根性はエンジニアの共通言語

  • エチオピアは以前から情報ネットワークの必要性を認識していて、いろんな国にネットワーク建設の依頼を行ったのだけれど、ヨーロッパの会社は、アフリカ進出に失敗したり、断ったりしたらしい。道が悪すぎて、物流が悪すぎて、「エチオピアの隅々にまでネットワークを」という、国の依頼を果たせなかったのだと
  • それを引き受けた中国の会社は、「エチオピアの隅々」を確約して、結局何をしたのかと言えば、人海戦術だった。中国本土から、大学を出たばっかりのエリートを1000人単位で引き抜いてきて、一番いい人材を、アフリカの最前線に飛ばしてた
  • アフリカはやっぱりむちゃくちゃだった。電波中継の塔を建てて、塔の真下は案の定ゴミの山で、塔はと言えばそのへんのホームセンターで売ってるようなアングル材で組まれていて、ボルトの防錆塗装なんかもやってないように見えた。塔は上手く動いていなくて、中国の技術者が確認すると、電波を増幅するアンプに電源コードが刺さってなかった。中国の本社から来たエンジニアは、それ見て絶句してた。「絶句のポーズ」は全世界なんだなとか、変なところで感心した
  • で、夜中に会議を開いてた。泥縄式のやりかた。エチオピア辺境の、あらゆる場所で物資が足りなくて、税関はのろまで、運輸にも確実さが期待できないのだと。どこにでも見られるグダグダな光景だけれど、その日の夜には現地の社長が、中国の本社に、採算度外視の「物資の空輸」を要請していた。決断が早かった
  • 「信頼性が不十分な輸送経路を使って、損失折り込みで物資を言質に届ける」ことなんて、たぶん日本の商社のお家芸なんだろうなとか、JAXA の「はやぶさ」なんかは、まさにそれやってるなとか、泥縄であたふたする中国の技術者をテレビで見ながら、それでも「もう日本人技術者にはああいう場所でノウハウを発揮するチャンスなんてない」のだと気がついて、ちょっと愕然とした
  • 「中国流」というのは要するに気合いと根性で、人材としては中国全土でも上位に来るような若手のエンジニアが、ご飯立ち食いで、泥まみれになって働いてた。妙に愛国心強くて、スマートとはちょっと遠いやりかたで、なんだか「プロジェクトX」みたいに見えた
  • プロジェクトX は、日本独自の昔話だと思っていたんだけれど、あれが昔話になってしまったのは、要するにああいう「泥まみれになって働けるプロジェクト」を、日本の政府とか、企業が取って来ることができなくなったからなんだな、と思った
  • 中国の国家主席が、自分たちの国を評して「世界最大の途上国」という表現を使って、アフリカ諸国との連携を表明していた。ああいう謙遜は危険度高くて、政敵から揚げ足取られかねないんだけれど、大国のトップがああいう言葉を出せるんだから、なんだか本気度ものすごいな、と感じた

品質は勝者の権利

  • 番組に出てきた中華携帯は、やっぱりちゃちだった。自分の手元にある、6年ぐらい昔の富士通の携帯電話と比べたって、機能こそ古い携帯が劣っているかもだけれど、見た目の品質は勝ってると思った。中華携帯は厚ぼったいし、ボタンの品質は悪そうだし、ねじなんか太くて、背面パネルの真ん中あたりに刺さってた。富士通の携帯はもう動かないけれど、ボタンなんか今でもしっかりしてるし、画面も大きくて、「額縁」に相当する部品は細く、ねじも限界まで隅に追いやられて、機械としてはまだまだ負けてない
  • こういうのはどこか、米軍機と零戦に似てる気がした。中華携帯はいいかげんな作りだけれど、もちろん安価で、中国の工場では、けっこう簡単そうに組み立てられていた。日本の携帯電話は洗練されてるけれど、恐らくは金型の管理一つとっても大変だろうし、製造も大変そう。アフリカ人の村長さんは、電波塔が建って、野暮ったい中華携帯で、初めての携帯電話を体験していた。でも笑っていて、すごくうれしそうだった。あの笑顔を購入するのに、「日本品質」なんて、たしかに不要というか、過剰なんだと思った
  • 中国がアフリカに携帯電話ネットワークを作り終えたとして、日本が高品質の携帯電話を売り込んだところで、割って入る余地なんてないように思えた。 「高品質」という価値は、たぶん、市場をひっくり返すだけの力を持っていない。イノベーションは、前の技術が一晩で陳腐になるような、前世代の破壊をもたらすようなやりかたか、圧倒的に安価な価格破壊か、いずれにしても「破壊」なんだと思う。品質では競合者を破壊できない
  • 「高品質を売る権利」を唯一持っているのは、市場を作ったトップランナーであって、トップがそこにいる場所に、あとからのこのことやってきて、高品質、高付加価値を売ろうとしたところで、それは高価な劣化コピーであって、市場をひっくり返す何かにはなれない
  • 日本の乗用車が高品質を売りにできたのは、それが昔は圧倒的に安価だったからであって、ある時期「競合者の破壊」が成し遂げられたからこそ、当時の日本は、高品質という手段を選択できたのだと思う。高品質はだから、あれは権利であって、義務でも必然でもないし、権利はだから、戦って勝ち取らないといけない
  • 中華携帯アンテナの品質なんて、ひどいものだった。電波塔は弱そうだったし、アンプ類は配線外付けで、部品もなんだか汎用品だった。日本だったら全部モジュール化するだろうし、きれいなケースに入れるだろうし、スイッチ類とか、たぶん専用設計するんじゃないかと思った
  • で、「雑で汚い中華電波塔」を見て自分が想像したのは、Google だった。初期のGoogle サーバーはたしか手作りで、あれは今見たってお粗末な、いかにも学生の手作りの、プロダクトとしてはかっこわるい代物だった。でもそんな「雑な手作りのサーバー」が、革命を起こした

それでも日本車はアフリカを走る

  • NHKって、やっぱり日本が大嫌いな人たちが番組考えてるんだろうな」なんて考えながら、画面のどこにも日本の「に」の字も出てこない中、それでも「日本」を発信していたのは、乗用車だった。調査用のランクルも、政府の人とか、中華企業の要人が乗っているのはみんなトヨタ車であって、中国車じゃなかった
  • 乗用車というのはだから、可能性なんだと思う。あのプロダクトは、環境に対して、外に対して閉じていて、中国人とアフリカ人しかいない中にあって、それでもなお、トヨタの車内は日本だった
  • 乗用車を輸出すること、何か「環境に対して閉じた」プロダクトを世界に広めることと言うのは、それは車を輸出しているようでいて、実際には小さな日本を、日本の環境を、日本の文化を、あの大きさにパッケージして輸出することなんだろうな、と考えてた
  • たぶん「2001夜物語」だと思うけれど、SF 漫画で、「植物が支配する惑星」の物語を思い浮かべてた。惑星は滅びかけていて、その惑星の植物の総意として、彼らは「種」を全宇宙に放出していた。惑星中の植物が、一つの大きな種の中に、自分たちの種を少しづつ寄生させて、それを宇宙に向かって放り出していた。あの「大きな種」は、たぶん今のところはトヨタの乗用車であって、これからの道に思えた
  • 大国出身の勝者が利益を総取りする構造だと、日本はいろいろ不利で、ああいうのに互して戦うのは厳しいと思った。むしろ「ゲリラ戦」的なやりかた、 「その国でそれでも使われている日本製品」を種として、外交官として、その中に、日本の文化だとか、製品だとか、技術を仕込んでいく、というやりかたが、生き残るすべになるような気がする