くじ引きルールの考えかた

「投票された票については、今までどおり候補者に配分する。無効票や白票、そもそも投票されなかった票は一つにまとめて、候補者全員で「くじ引き」を行って、勝った人がそれを総取りできる」というルールの補足。

たとえばそこに住んでいる住民に、投票というものを強制して、無理矢理「投票率100%」を実現したところで、 選挙に興味がない人は、やっぱり「どうだっていい」と思うだろうし、「誰が勝利したって世の中一緒」だと思う。 「くじ引きルール」というのは、「投票に行かない人はそう思っている」という仮定の下に、擬似的に、 安価に「投票率100%」と同じ状況を作り出そうとしている。

  • くじ引きという理不尽が選挙に組み込まれると、「まじめ」に政治家を目指そうという人は、選挙に対する意識の極めて高い、 投票率がほとんど100%の地域で勝ち上がらないといけない
  • そういう場所は、激戦区であるその代わり、政治に対する関心が極端に高いから、候補者は、政策をつぶやくだけで、 それが勝手に広まっていく。街宣車で自分の名前を叫ばなくても、住民は勝手に政策を読むから、 名前を周知するコストは安価になる
  • 選挙のコストというのは要するに、「興味のない人に、興味を持ってもらう」ためのコストで、 つながりの緊密な、投票率の極端に高い地域というものを仮定すると、そういう場所では、 競争率が高い代わりに、選挙のコスト自体は安価だし、みんな政策を見るから、 コストをかけても、勝率はそんなに変わらない
  • 一方で、政治に対する関心が実質存在しない地域では、投票と、くじ引きとがほとんど等しくなる。 そういう場所では、そもそも「選挙活動」それ自体の意味がない。仮にある候補者の名前が周知されたところで、 その人と、「通りすがりの立候補者」とは、くじ引きルールの上で対等になってしまうから、やっぱり選挙には、 一切のお金がかからない。政治に対する関心が低めの地域で、忠誠心の高い小さな地盤に支えられた「ベテラン議員」の 既得権益はこれで滅ぶ。地元の業者さんとか、特定の政治家にお金を積む理由が無くなるから、変な癒着が減ると思う
  • 投票率が中途半端な、だいたい60%ぐらいの地域での戦いかたは難しい。頑張って選挙戦を戦ったところで、 選挙の勝者が、くじ引き野郎に逆転されたりする。これを防ぐためには、まじめな候補者は、「勝つ戦いかた」を 考えるだけでなく、地域全体を啓蒙して、投票率それ自体を挙げることに、自ら努力しないといけない。 今の選挙みたいに、「雨が降ったら投票率下がって俺様有利」みたいな発想はできなくなる
  • くじ引きルールだと、投票率は仮想的に100% になるから、従来の、たとえば宗教団体直結政党みたいな、 「戦略による効率のいい勝利」は望めなくなる。まじめな地域は激戦区だから、政策訴えないと勝てないし、 不真面目な地域は「くじ引き」だから、最低限、全ての地域に候補者を立てる必要があって、今みたいに、 勝てる地域にだけ候補者を配置する、効率のいいやりかたが通用しなくなる
  • たとえば誰かが、地域を徹底的に「教化」して、投票率100%、しかも支持率100%にしてしまったなら、 その議員はいつまでも、そこに居座ることになる。でもそういう人は支持されてるんだから、別にそれでいいと思う

ルールブックに1行追加するだけで、戦いかたは、けっこう変わる。政治家という人たちが、 党派をつくって、派閥をつくって、いわば「手下」を増やしていこうと思ったならば、 選挙に多する関心の高い激戦区を勝ち続けたベテランが、周辺地域を「教化」して、選挙に対する 地域の関心を高めていって、新しい激戦区を生み出して、さらにそこで、自らの政策が受け入れられないといけない。

厳しいことにはなるだろうけれど、行き先は、そんなに悪い方向ではないと思う。