Open Office で症例報告スライドを作る

だいたい10枚、急に頼まれたときなんかに、最小限の手間で、平凡な資料を作るやりかた。

表題、入院時病歴、理学所見、検査データ、画像所見のスライドが2枚ぐらいで、 だいたい7枚。あとは経過表を作って、考察を2枚ぐらい入れると、だいたい10枚になる。

病歴スライドと理学所見

これはカルテを引き写すだけ。

コツというか、姑息な知恵として、「症例」「現病歴」「既往歴」みたいな 見出しと、それに続く本文とを、全て独立したテキストボックスで作っておく。 あとからそれを、スライドを「表示->グリッド線を表示」にして、 適当に見栄え良く配列しておくと、あとから上司に「ここを直せ」なんて言われたとき、 レイアウトの狂いを最小限にできて便利。

検査データ

「エクセルで作ると便利」という意見を以前にいただいたことがあって、電子カルテ の入っている病院だと、検査データをCSV形式で読み出せるから、エクセルとの親和性が 高いのだけれど、うちの施設にはそんなものはない。

で、必要な検査データも限られているから、これは全部手打ちしてしまったほうが、 結局速いような気がしている。

これもまた、一つのテキストボックスに全ての数字を入れてしまうと、 あとからレイアウトの収拾がつかなくなってしまう。

だからたとえば、「Na 139 meq/l」なんて記述は、一つ一つ別のテキストボックスに収めておいて、 「血算」だとか「生化学」なんて見出しと同じく、全部ばらばらのテキストボックスとして配列する。 あとから「テキストボックスを複数選択後右クリック->配列」、または 「分布」を用いることで、数字を見栄え良く並べられる。

表作成機能を使うとか、もっと賢いやりかたはあるはずだけれど、 こういうのは外野の意見でどんどん体裁が変わるものだから、 一番馬鹿っぽいやりかたしたほうが、変更しやすいような気がする。

Open Office は、テキストボックスを複数作ると、そのうち画面の任意の場所を 右クリックすると、勝手に新しいテキストボックスを作るようになるので、 こういうやりかたをするのに少しだけ便利。

経過表の盗みかた

時系列に沿って、使った薬の量や、人工呼吸器の設定、 患者さんの体温だとか血圧、症状なんかを並べた「経過表」というものが、 作る上で一番面倒くさい。

発想は大変だから、まずは「盗む」ことを考えたほうが速い。

  • PubMed を使う:「Limits」を選択して、「links to free full text」 「Case Reports」にそれぞれチェックを入れてから病名を検索すると、 PDF がダウンロード可能な症例報告だけが残る。 症例報告には、たいていの場合経過表がついてくるから、それを見て考える
  • Google を使う:Google のイメージ検索で「clinical course」という言葉を検索すると、 いろんな病気の臨床経過表が引っ張れる。それを参考にする
  • PowerPoint 検索:病名と一緒に、「.ppt」という文字列を検索すると、 パワーポイントプレゼンテーションだけが検索できる。 運がよければ、「そのものずばり」のスライドがダウロードできる

Google の画像検索が、たぶん一番簡単だと思う。以前よりも患者さんの個人情報にみんな 配慮するようになったのか、パワーポイント検索を行っても、症例報告スライドが手に入りにくくなった。

作りかた

例によってこんなスライドを作る。

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以下のものが作れれば、同じスライドが作れる。

  • 治療経過を書くための横棒グラフ
  • 日程や単位を記載するための目盛り軸
  • データを視覚化するための折れ線グラフ

横棒グラフ

治療薬や酸素投与量を書くときに使う横棒グラフは、ただの四角形。

下段のメニューから四角形を選んで、適当に大きさを調整して配列する。大きく作って、 「右クリック-> 配列」で並べたあとに「右クリック->グループ化」を行えば、 拡大縮小できる。

Open Office は、四角形の上にテキストボックスを重ねると、文字が四角形に 勝手に一体化されてしまうことがあるので、別の場所にテキストボックスを作って、 最後に重ねたほうがいいかもしれない。このへんの挙動は、Power Point と 少し違うような気がする。

目盛り付きの縦軸/横軸

折れ線グラフの目盛り軸を以下のように作る。

  1. まずは小さな横棒をひいて、それを必要な数だけコピーする。これが目盛りになる
  2. コピーした横棒を、これも適当な間隔を開けて、何となく縦に並べる
  3. 全ての横棒を選択-> 右クリック -> 配置 ->右揃え で、横棒が縦一列に並ぶ
  4. もう一度全ての縦棒を選択 -> 右クリック -> 分布 -> 縦 で、等間隔に並ぶ
  5. 等間隔に並んだ目盛りにくっつけるように縦棒をひく。これが軸になる
  6. 最後に全てを選択 -> 図形の調整 -> グループ化 で一つの固まりにする

グループ化を行ったあとは、長さや幅が自由に調整可能な目盛り軸が得られる。少し大きめに作って、 グループ化したあとで縮小すると、小さな目盛り軸がきれいに作れる。 あとはテキストボックスに数字を入れて、それも「右揃え->分布」を用いて 縦一列に並べてやると、目盛りと数値の入ったグラフ軸が作れる。

折れ線グラフを書く

体温変化をスライドにするときとか、検査結果を図表にする時は、全部折れ線グラフのお世話になる。

エクセルにまめにデータを打ち込んでいる人なら、そもそも慌てる状況にならないんだろうけれど、 急いでいるとき、とりあえずそこそこ見栄えのいい図をでっち上げるときには、 全部フリーハンドで、それっぽいグラフを描くことになる。

調整可能な折れ線は、下段メニューの「曲線」の中から、「多角形」を選択することで得られる。

マウスをドラッグして、時々クリックするだけで、関節のついた折れ線になる。最後にダブルクリックを行うと、 折れ線はそこで終了する。これは「関節」のついた、調整可能な折れ線なので、あとは折れ線を選択後、 「頂点の編集」で、何となくそれっぽい形を作れる。

Open Office の頂点移動は粗いんだけれど、Ctrl キーを押しながらマウスをドラッグすると、 折れ線の微調整が行える。

それっぽいグラフが書けたら、目盛り軸と折れ線とを全て選択して、右クリック->グループ化 を行っておく。

ラフスケッチの効用

マイクロソフトPowerPoint に比べると、OpenOffice のそれはわずかに使いにくいというか、 こなれていない印象があるけれど、簡単なスライドならば、もう十分実用範囲に思える。

昔こういうのを作っていた頃は、最初からパワーポイントを手打ちしていたんだけれど、最近はたいてい、 そのへんのメモ帳に、ボールペンで下書きを殴り書きしておいて、それを「清書」するかんじでPC を使っている。

パワーポイントみたいなソフトは、清書するための道具としては相当に優れているんだけれど、 頭の中にあるものをまとめる道具としては複雑すぎるというか、なんだかピンセットで家を建てるような ところがあって、「作りながら考える」やりかたをすると、かえって時間がかかる。

自分が作るのは、せいぜい病歴だとか検査データの数字を配列したり、そこにX線写真の画像を張り込む程度で、 複雑さの程度は浅いんだけれど、こんなものでも、「絵コンテ」みたいなものがあると、作業が簡単になる気がする。

ラフな下書きは、もちろん適当に描くだけなんだけれど、ラフすぎるとうまくいかない。

それが文字なら、最悪それだけ読んでもスライドが作れる程度、写真なら、それが胸の単純写真なのか、 CTスキャン画像なのか分かる程度には、詳しく書かないといけない。あとから清書するからといって、 めんどくさそうなところをラフにやり過ぎると、今度は実際スライドを作るときに、 ラフがなんの役にも立たなくて、愕然とする。

ラフを描くときには、「めんどくさいな」とか、「ここはどうせ清書するときに作り込むから」とか、 自分に言い訳する場所が、たいていの場合、スライドを作るときに一番面倒な部分になる。 ボールペンで下書きするときに、ここをおろそかにすると、だからラフの意味がなくなってしまう。

崖の上のポニョ」のDVD には、絵コンテのおまけがついてくる。

オープニングの、海の生き物が画面いっぱいにあふれている様なんかは、 絵コンテには、そのまんま全部の生き物がびっしり描かれているし、部屋の中で無線機を使う場面では、 机の上に並ぶ無線機のメーターだとか、本棚の本、たしか夏目漱石の本の背表紙まで、きちんと描かれている。

ああいうのを、たとえば「海の中にクラゲがびっしり」だとか、「雑然とした机」なんて言葉でごまかして、 絵コンテをいいかげんに済ましてしまうと、たぶん現場が混乱するんだろうし、 ラフを描く段階で「面倒くさいな」と思うその場所は、清書するときにラフがあると一番助かる場所であって、 「頭の中身を画像化すること」というのは、要するにそういう作業なんだと思う。