ざわめくインターフェース

たぶん「バックグラウンドノイズ」には、役に立つ情報が多く含まれていて、 我々は、普段は意識しないままに、そこから情報を抽出して利用している。

立ち位置が異なる人同士の力関係とか、世間全体から見た自分の位置みたいな 情報は、たぶんそんな「ノイズ」を通じて取得されている。

ネット世間には、良くも悪くもそんな「雑音」が存在しない。必要な情報に すぐアクセスできて、目に見える情報以外の雑音が存在しないネット世界は、 実世界に比べて「きれい」という認識は間違いで、やはり「情報が少ない」と いう認識を持たないといけない。

ネット世間に「次」を求めるとするならば、そんなノイズ情報、「ざわめき」の実装なのだと思う。

周辺情報が欲しい

当直中の時間つぶしはニコニコ動画ばっかり。いつ呼ばれるか分からないし、 年取ってから、真夜中とか集中力続かなくて、眺めるだけで楽しめるメディアは本当に便利。

ニコ動の検索はそれなりに充実していて、ジャンルごとの人気動画とか、 最近コメントされた動画とか、何かみたいものがはっきりしているときは、 その動画を探すのは案外簡単。

その代わり、今の検索システムでは、「何か面白そうなもの」とか、 「賑やかな場所」みたいな検索ワードを入れても、思ったような動画は見つからない。

「何か面白そうなもの」を探すときには、だから「はてなブックマーク」の注目動画 を探したり、twitter で「またニコニコ動画見てる」なんて言葉で検索をかけて、 注目が集まっている動画とか、あるいは注目した人が見てる動画をさがす。

他の人が興味を持っている動画は、もちろん自分が興味を持つとは限らないんだけれど、 目的を持たない検索をするときには、とりあえず「誰かが面白がっているもの」を 探すやりかたは役に立つ。

誰かが面白がっているものを探して、その動画を見て、自分もまた面白がって。 今まで全く興味の無かった、あるいはそんなジャンルがあることも知らなかった動画が見つかると、 ちょっと得した気分になれる。

問題はそこから先。

あるジャンルが「面白い」なんて思えたとき、今の検索システムだと、そこからまた 表ページに立ち戻って、検索をやり直さないといけない。ジャンルを絞って検索することで、 人気のある動画はたしかに分かるんだけれど、本当に知りたいのは人気動画それ自体ではなくて、 自分が興味を持った動画の、界隈での立ち位置。

ニコ動世間での「位置情報」みたいなものは、検索で探すのは難しい。

町のアナロジー

それが知らない町であっても、ちょっと歩けば、にぎわっている場所はすぐ分かる。

人がたくさん集まっている中心には、少なくとも「何か」あるし、何かあった場所から 駅の方向を見渡せば、自分が今いる場所というのが、「中心」からどれぐらい隔たっているのか、 そんな情報も簡単に把握できる。

町には地形があって人がいて、地形は構造を作って、人は賑わいを作る。構造をたどりながら 賑わいを探すことで、そこを歩き回るだけで、何となく全体像を把握できて、 「全体から見た自分の興味」みたいな位置情報は、賑わいを通じて自然に理解できる。

町には検索エンジンなんて存在しないし、「賑わい地図」みたいな視覚化手段も 乏しいけれど、町にはノイズが満ちている。

たとえ壁に隠れて見えない場所でも、人が集まるところからは賑わいが伝わるし、 誰かが芸をしていたり、あるいは喧嘩をしている場所には自然に人が集まって、 たとえ自分の興味とは外れていても、「そこに人が集まっている」なんて情報は、 歩いてるだけで伝わってくる。

今のネット世間は、目的を持った人には本当に便利な場所。 目的を言語化して、検索すれば、ノイズなしの情報が、すぐ目の前に現れる。

ところがもっと漠然とした目的、「面白そうな場所」とか、「楽しく過ごしたい」とか、 検索できない目的を持ったとき、「ノイズ」の無い世界では、そんな目的にたどり着けない。

町にあふれるバックグラウンドノイズというのは、たぶん「楽しい場所」みたいな、 検索できない場所にたどり着くために、その人を案内する役割を持っている。それが自分にとって もっとも楽しいかどうかはともかく、賑やかそうな場所を探して歩くだけで、きっとそれなりに楽しいだろうから。

ネット世界には、こんな案内情報がまだ備わっていない。

タコツボ化した世間のこと

ネット世界では、自分の真横ですごいことが始まっても、一度上の階層に戻って検索をやり直さないと、 「隣」で起きてる事件に気がつけない。

人と人との距離が極端に近い、mixi みたいなコミュニティですら、2クリック先で犯罪告白大会が 行われてるのに、自分たちはその頃動物愛護のおしゃべりしてたりとか、実世界ではありえないことが 当たり前に起きる。

「ざわめき」というのはだから、人間どうしの距離というよりは、むしろシステムの問題。 ネット世間は、まだ実世界コミュニケーションを十分に再現できていなくて、 当たり前のように存在している「ざわめき」、バックグラウンドノイズを介した 周辺情報が欠落している。コミュニケーションに欠かせない情報が欠落しているから、 実世界では起きないトラブルが頻発する。

たとえばニコ動世界に町のアナロジーをそのまんま実装すると、なんだか 「セカンドライフ」の劣化コピーみたいな町並みが並んで、町の中心街には 「アイドルマスター」の看板ばっかり並んだりする。それは「便利なざわめき」 からはずいぶん遠くて、「町」というのはだから、そもそも「ざわめき」の 効果を説明するアナロジーとしてふさわしくないんだけれど、 まだどうすればいいのか分からない。

実際問題、ノイズをそのまんま音声情報で 流したら、うるさくてしょうがないから、情報は全部視覚で入れるしかないんだろうけれど、 何かできたらいいなと思う。

「周辺情報」の実装が上手にできたら、さまようだけでそこそこ楽しめて、 「正しさ」競争だとか、意見の違う人達が、お互い「みんなこう思っている」 なんて担保を背負って喧嘩する風景だとか、構造的にありえなくなる。

「そこに居続けること」を気持ちよさにつなげるための工夫として、 「ざわめく」インターフェース作れたら、きっと役に立つと思うんだけれど。