状況記述言語について

ライトノベルだとか、ニコニコ動画を見ながら考えていること。

登場人物が喋りだす

  • 売れたライトノベル涼宮ハルヒ」のシリーズは、なんだかんだ言ってもよくできている。3冊ぐらい読むと、頭の中で、 登場人物が、勝手にしゃべり出すような印象を受ける
  • ハルヒ」の二次創作を、いろんな人が行っている。無数にあるから、適当につまみ食いするような読みかたしか できないんだけれど、読んでいて、自分が持っていた登場人物の印象と、ほとんど矛盾がない。矛盾しないということは、 二次創作の作者さんと、自分の脳内にいる登場人物とは、恐らくはだいたい同じ「人格」を共有できていて、 あの小説はたぶん、文庫本3冊ぐらいの容量で、仮想人格みたいなものを生み出すのに成功している
  • 「面白い小説」と「喋りだす小説」とは、重なりはほんの一部なのだと思う。「ハルヒ」よりも面白い小説は たくさんあるけれど、登場人物が喋らないものも、やっぱりたくさんある。自分が興味のないジャンルの小説で、 やっぱり二次創作がたくさん発表されているものなんかは、恐らくはそうした小説を読んだ人の中では、 やっぱり登場人物が喋ってるんだろうと思う
  • ニコニコ動画でたくさん引用される、「アイドルマスター」というゲームの登場人物もまた、 戦闘機に乗せられたり、三国志世界で活躍してみたり、様々な舞台で、架空の物語に引っ張り出されている
  • アイドルマスターの二次創作作品も、無数と言っていいぐらいにたくさんあって、 それぞれに視聴者がついている。お互いの物語ごとに、登場人物の振る舞いだとか、 考えかたにはほとんど矛盾を感じないから、あのゲームを1本終えると、プレイヤーの頭の中には、 登場人物の仮想人格みたいなものがダウンロードされるんだろうと思う

歌うプログラムのこと

  • ボーカロイド初音ミク」という合成音声ソフトが売れている。PC に「アイウエオ」を教えるだけでは、 あれは全然足りなくて、声優さんは、様々な音だとか、音どうしのつながりを吹き込んで、 録音している間は、自分が何をやっているのか、よく分からないんだという
  • 「それが人の歌に聞こえる」ためには、最小限必要な音素というものがあって、 あのプログラムを書いた人たちは、それがなんなのか、分かっているのだろうと思う
  • もちろん細かい調整は必要にせよ、いくつも発表されている「初音ミク」の声というのは、 人間が歌っているのと、素人目には区別がつかないぐらいに人間くさい

人格は記述できる

  • 恐らくは「人格」というものは、「ある状況に対する、その人の振るまいかた」なんだろうと思う
  • ボーカロイドと同じく、いくつかの典型的な状況と、状況と状況とをつなぐ「間」みたいなものに対する振る舞いとを組み合わせると、 恐らくは日常生活レベルのほとんどの状況は、そうした「状況記述言語」みたいなものから演繹できる
  • それが言語として、日常生活で遭遇するほとんどの状況を、単語の組み合わせで表現できるようになったなら、 それは「人格」として一人歩きできる
  • 媒体が小説であれ、ゲームであれ、あるいはドラマやアニメみたいなものであれ、人格を生み出すのに必要なだけの 状況-反応系を、媒体の中に埋め込むことができたなら、恐らくはそれを見た人の頭の中に、仮想人格を意図的に生み出せる
  • 小説を読むときに、「想像が刺激される」なんて表現が使われるけれど、個人の想像は、個人の中で終わってしまう。 仮想人格を生み出すために必要なパーツが欠落していたら、恐らくはどれだけ優れた小説を読んだところで、 登場人物はしゃべり出さないし、人格を他の読者と共有できなければ、二次創作は盛り上がらない

それが売り上げに直結するのかどうかは分からないけれど、最近流行しているいくつかのメディアを眺めて、 仮想人格というものは、ある程度意図的に生み出すことができるような気がしている。

何かを見たり読んだりして、登場人物が頭の中でしゃべり出して、どこかお店に入ったら、頭の中の誰かが「これを買ってくれ」なんて 叫びだしたら、広告の世界も、ちょっと面白くなると思う。