ニコニコ動画と歌舞伎

当直あけの休日。

朝から日本酒引っ掛けて、銀座ぶらつきながら歌舞伎座へ。 全身大江戸モードになって舞台見物した後、近くの茶屋で「三代目みたいな艶っぽい弁天小僧を 演れる役者はもういねぇ…」なんて味わい深い爺のつぶやき聞きながらまた飲んで、 松屋冷やかしてから歩いて宿舎に帰る。

国立がんセンター歌舞伎座のすぐそば。こんな贅沢な休日過ごしている人、1人ぐらいいるはず。

田舎に引っ込んでから、歌舞伎座なんて すっかり足が遠のいてしまって、もう何年も行っていない。

ニコニコの「コメント弾幕」というのは、要するに歌舞伎でいうところの「大向こうからの掛け声」みたいなものなんだと思った。

歌舞伎座の中には「大向こう」という舞台正面、天井に近い安席があって、そこはたいてい常連さんが陣取っていて、舞台のいい場面になると「中村屋!」とか「待ってました!」といった声をかけて、場を盛り上げる。

舞台をみる人は、誰が声を出してもかまわないけれど、掛け声のタイミングなんかはかなり厳密に決まっていて、外した掛け声というのは野暮と言われたり、女性が掛け声を出すのは禁じられていて、声をかけたかったら近くの男性を捕まえないといけない(声が高すぎて、舞台が壊れるかららしい)。

江戸のある時期というのは、技術が停滞気味であったわりには生活に少しだけゆとりがあって、限られた娯楽を何とか工夫して、より面白くしようと人々が努力した時期でもあって。

演劇という、ある意味「単に演じられるものをみるだけ」の娯楽は工夫されて、役者の演技に「ツケ」が入ったり、大向こうからの掛け声が場を盛り上げたり、舞台には「花道」が作られて、観客と役者との距離を大いに縮めてみたり。

ニコニコというサービスも、動画の配信という、ある程度技術的に固定されたものに工夫を加えて、それをもっと楽しもうとしたアイデアだけれど、案外昔の人々の努力に重なる部分がある気がする。

歌舞伎文脈で言うところの「ツケ」であったり、「花道」であったりといった工夫は、動画配信のサービスで何かを付加することはできないだろうか?