言葉のこと

伝える技術について。

正しい言葉を伝える

業界第一位のマクドナルドは子供に人気があって、業界第2位のバーガーキングは、 どちらかというほ大人向けの味を売りにしている。

バーガーキングの戦略として、マクドナルドに対して「マックはお子様向けのハンバーガーだ」という ネガティブキャンペーンが有効に働くかもしれない。 これを仕掛けると、「そのとおりだ」と思う大人と、「自分はもう大人だ」と思う子供達と、 両者を新たな顧客に取り込む可能性が見えてくる。

ところが、「大人っぽい子供」を当てこんで、バーガーキングが子供向けのメニューを 作ったら、言葉が真実として伝わらない。キャンペーンは失敗するだろう。

反対意見を表明できる立ち位置

正義とか平和、福祉みたいな言葉は、誰も反対できない。空虚に響いて、支持につながらない。

「高価だけれど安全」とか、「弱者はつぶすけれど社会全体を盛り上げる」なんて立ち位置は、 反対の立場、「安全率低くても安価なもの」とか、「盛り下がっても公平」とか、 そんな意見を違和感なく出せる。

反対意見を表明できる言葉は、反対者を作る代わりに、賛成する人に強力に働く。

平和とか福祉が好きで、何にでも「反対」を唱える人達は、漠然としたイメージで 何となく支持を集めるのが上手。 目を覚ますのは疲れるから、みんな眠ってる。漠然としたイメージは 夢に似ていて気持ちがよくて。

夢を操るのが上手な、こんな人達と競争しようと思ったら、 「みんな」を相手に競争するんじゃなくて、 まずは「みんな」を分割して、賛成する人と、反対する人とをはっきりさせて、 みんなに目を覚ましてもらわないといけない。

夢は空虚。目が覚めればきっと、彼らの空虚さが晒されるはず。

支配者の真似をしない

コカコーラとペプシは同じ顧客層を相手に商売をして、ペプシが大負けしていた。

ペプシはコカコーラを真似するのを止めて、大人を相手に商売することを捨て、 「ペプシ世代」に集中したキャンペーンを張った。

「若い感性を持った若者はペプシを飲む」

大人が眉をひそめるような若手アーティストをコマーシャルに起用することで、 ペプシは大人の支持を切り捨て、代わりに若い人と、「自分は若い」と考える大人の支持を得た。

ナンバーワンを目標にして、「ああなろう」といくら努力したところで、 どうやってもナンバーワンの劣化コピーにしかなれない。

世間受けのいいニュースキャスターに対抗できるのは、印象のいい人なんかじゃなくて、 「フルメタルジャケット」の主人公、ハートマン軍曹みたいな人だったりして。

最悪の敵とつきあう

倒れかかったアップルコンピューターが提携先に選んだのは、ライバル会社のマイクロソフトだった。

彼らは「一緒にライバルを倒す企業」を探すかわりに、「アップルが倒産して、一番困る企業」を探した。 アップルが倒れると、マイクロソフト独禁法に引っかかってしまい、企業として都合が 悪いことになる。

最悪の敵は、たいていの場合、こちらが倒れると一番困る人達でもある。

患者の権利団体や医療ジャーナリスト、あるいは医療行政に批判的な立場を売りにする 司法の人達というのは、敵であると同時に、医療業界から最も恩恵を受けている人達でもある。

真っ先に言葉を届かせるべき相手は、確実な支持が期待できるような人達ではなくて、 むしろ敵対する相手でなくてはならない。

あきらめる前に先送りを考える

王様から死刑を宣告された囚人が、「私を1 年生かしてくれれば、 王様の馬を飛べるようにします」と約束して、 死刑を1年だけ延ばしてもらった。

囚人仲間が「意味のないことをしたな、どうせ1年先に死ぬのに」と死刑囚を馬鹿にしたとき、 彼はこんな反論をしたのだという。

「意味はある。自分はこれで、自由になれるチャンスを4つも得ることができた」。 王が1年以内に死ぬかもしれない。 自分が死刑以外の原因で死ぬかもしれない。 馬が死んでしまうかもしれない。 最後に、馬が本当に飛ぶかもしれない!!

読むこと、伝えること

同業者のblog で「あいつ間違ってる。時代が読めてねぇ」なんて感想をいただいた。

「読み」も面白いんだけれど、やっぱり昔から興味があるのは「伝える」こと。

この仕事はもちろん技術が大切なんだけれど、伝えること、対話することの 力もまた、非常に大きくて。

22世紀の近未来、アフリカのキクユ族の末裔たちは、民族の伝統的価値観を追い求め、 ユートピアを築くために地球を離れ、惑星改造技術で作られた新天地キリンヤガへと移住した。

厳しい自然の中で、古の掟に従って「自然に」暮らす。

欧米の大学で学んだエリートでありながら、文明を拒否し、祈祷師としてキクユ族に君臨する 主人公コリバは、自ら作った理想の社会を維持するために奔走する。

技術を否定した「自然な理想郷」、キリンヤガを崩壊させたのは健康問題。 コリバを楽園から放逐したのは、文明社会の医師が用いた抗生物質だった。

原点回帰とノスタルジー大好き。

コミュニケーションの努力を放棄して、マスコミから「人類の敵」認定されて。そんな 医療という技術もまた、 コミュニケーションの手段を取り戻せれば、「自然な理想郷」から祈祷師を追い出せる日も きっと来る。

間違い上等。でも思考は続けてる。