皮下注射を用いた維持輸液

点滴ラインがとれない高齢者とか、認知症がひどくてすぐにラインを抜いてしまう患者さんなどに 輸液を行う、もうひとつのやりかた。

歴史

皮下に大量の輸液を行うことは100年来行われているらしい。

1950年代、高張液を輸液したり、あるいは大量の低張液を輸液した際に血圧低下などの トラブルが報告されてから下火になったが、最近になってみなおされるようになった。

急速輸液はできず、また使える輸液性剤は限られるものの、皮下注射は穿刺部位を選ばず、 簡便で、低コストな輸液方法として、緩和ケアやナーシングホームの現場で広まっているという。

利点と欠点

利点

  • 安価
  • 末梢静脈輸液に比べておおむね快適
  • 肺水腫や輸液過剰を起こしにくい
  • 穿刺が簡単で、静脈輸液に比べてわずらわしくない
  • 針が抜けても水が漏れるだけなので、スタッフが監視したり、手足を縛る頻度を減らせる
  • 末梢静脈炎を起こしたり、輸液ラインから全身の感染症に発展する可能性が低い
  • ラインが凝血する可能性がほとんどないため、クランプを閉じるだけでいつでも中断できる

欠点

  • 最大でも毎分1mlの速度でしか輸液できない
  • 1日に輸液可能な最大量は、2箇所の穿刺部位を併用しても3000ml程度
  • 特定の電解質輸液や、栄養点滴を行うのは難しい
  • 注射部位の浮腫が生じる

適応と禁忌

適応

  • 軽度から中等度の脱水患者
  • 認知症高齢者など、通常の点滴が難しい患者
  • 高齢者や末期がん患者など、長期間の輸液が必要な患者は、皮下の方が合併症を減らせる可能性がある
  • 在宅輸液や訪問看護などでも有効

禁忌

  • 急速輸液が必要な患者では有効でない
  • 重症心不全や、出血傾向のある患者などでも用いないほうがいい

やりかた

  1. 穿刺部位をヨードで消毒する
  2. 23~21ゲージの翼状針か、テフロン針を用意する
  3. 消毒した部位を45~60度程度の角度で皮下に穿刺
  4. 1日量はだいたい500から1000ml程度。これを24時間で輸液

部位

  • 歩ける人なら腹部、前胸部、肋間、鎖骨下などの皮膚を用いる
  • 歩けない人ならば、大腿部、腹部、腕の外側などを用いることもできる
  • 穿刺にテフロン針を用いたときの平均使用期間は11日、 金属翼状針を用いたときの使用期間は5日前後

量と速度

  • 皮下注射では、毎分1ml、1日量で1500mlの輸液まで注入することができる
  • 2箇所の穿刺部位を併用した場合、輸液量は最大3000ml/日
  • ヒアルロニダーゼを併用すると吸収が早まるらしいが、 用いても用いなくても変わらないという報告もある

使用できる輸液

生食を用いるのが基本で、1号液や、もっと低張な輸液を用いてもいい。

かつては5%糖液を用いた際に血圧低下の合併症が報告されたが、 最近の報告では、合併症の発生率は他の輸液製剤と大差ないらしい。

ヒアルロニダーゼを輸液に混ぜると吸収が早まるらしいが、アレルギーを生じたり、 局所反応を起こす可能性もある。必ずしも必要な物として推薦されているわけではない。

カリウム製剤については、輸液に混合することも可能。 KCLで20~40 mmol/L ぐらいなら大丈夫らしいが、個人的にはすごく

3号液なら、そんなに気にしなくても大丈夫か?

モルヒネの吸収についてはデータがないらしいが、普通の麻薬静注と同じ感覚で 用いてほぼ大丈夫なはず。

Letter のほうに投稿されていた「皮下輸液可能な静注性剤」として、 メトクロプラミド、ロラゼパムジフェンヒドラミン、 デキサメサゾン、プロメタジン、ミダゾラムなどが挙げられていた。

その他

editorial のコメント。

  • 持続皮下注は、だいたい20ml/h ~75ml/h 程度の速度で行うのがいい
  • この方法は背中でも穿刺できるので、点滴を引き抜いてしまう人でも、 手のとどきにくいところに点滴をできるのが利点
  • 穿刺部位が赤くなったら抜き時なので、透明なフィルムドレッシングで穿刺部位を覆うのが望ましい

夜間寝ているときに輸液しておいて、日中は皮下に入った分から水分を補給するやりかたとか、 皮下注製剤に鎮静薬を混ぜておいて、夜間に適切な沈静を得るやりかたとか、 いろんな応用ができるらしい。

昔は子供の輸液方法として皮下注射が用いられていたそうだけれど、 やったことのある先生の話だと、「あれは色素沈着するから、親御さんうるさいよ」とのこと。

一応「24時間持続点滴」という事で療養病棟の加算が取れるから、 これから広まるかも。

参考文献

Hypodermoclysis: An Alternative Infusion Technique

Editorials - November 1, 2001

Letters to the Editor - July 1, 2002