現在を楽しめていますか?

昔語り。

今よりもっと年次が下だった頃。

「なあ、○○、俺ァ、こんなに苦労して、業績あげてるのに、こんなチンケな 病院でゴミ箱医者を続けて…(中略)、いま、さる有名病院からリクルートの 依頼が来てる。もうこのままここで仕事を続けてもしょうがないから、 そっちに移ろうかと考えてるんだ…。」

年次が上になってから、現状を楽しいと思えない人はものすごく不幸だ。

不満を聞かされる下級生の立場というのは、ものすごく強い。

  • 飲み会の常道で、はいそうですね、と話を流すこともできる
  • 上司を持ち上げることもできるけれど、返答いかんによっては、自分よりも年次が上の医師を地獄に落とすこともできる

誰かに不満を聞いてもらうとき、その不満の評価は相手にゆだねられる。

自分の置かれた現状、あるいは、今までやってきたことそのものに 対する評価を、目の前の下級生に依頼するというのは、 自分の人生の評価そのものをその人に託してしまうわけで。

下級生というのは本来、上級の医師に比べて格が下。ヌルい返答は許されない。

ところが、「その人の過去に対する評価」という一点においては、未来を持っている分だけ、 ベテランよりもはるかに強い。

現状の不満を下級生に聞かせる行為というのは、目の前の強盗に実弾を込めた 拳銃を渡してあげるようなものだ。

そのときは、とても不安になった。

不満を聞くということ自体、下級生にとっては、そんなに楽しい行為ではない。

なによりも、長く一緒に仕事をしたわけでもない、それも年次が下の人間に そこまで無防備な状態をさらけ出してしまう上司の無防備さ、 その隙の多さが怖かった。

「本当に、現在おかれた状況を楽しめてますか?」

今までのほとんどの時間、一緒に仕事をさせてもらった人は、 みんな自分の現状を楽しんでいた。仕事がどんなに忙しかろうが、 誰もが楽しそうに働いていたから、自分も楽しめたし、またそういうところ ばかり選んでやってきた。

あれからずいぶんたった。

楽しそうに働いている人に一生懸命ついていけばよかった時代は そろそろ終わり。

今はまだ、現状が楽しい。

多分、大丈夫…。