空気の扱い 基本の基本
空気は操作できる。与えられる影響の大小はあるけれど、できることは皆同じ。
空気を読める人とそうでない人、空気を操作できる人とそうでない人の差というのは、 この扱いかたに自覚的であるかどうかが大部分だと思う。
基本操作は以下の4つ。
- 締める
- 緩める
- 押す
- 引く
「押す」動作ひとつとっても、鋭く押すか、柔らかく押すか、 押したことの効果を期待するのか、その反発力を使うのかといったバリエーションはあるけれど、 基本は4つ。
空気を締める
空気を締めるには、以下の3種類のやりかたがある。
- 状況で締める
- 物理的に締める
- 言葉で締める
空気が締まると、空気は堅く、弾力を持つようになる。
こちらの意志は、すぐに全員に伝わる。そのかわり、「押しかた」が弱いと、はね返される。
何か筋を通したいとき、あるいはどうしてもやってほしいことがあるときなどは、「締まった」空気の ほうが、物事がスムーズに運ぶ。
逆に、無理を通したい時や、みんなの議論がほしいときなどは、あまり締めすぎると 反発が強くなって、うまく行かない。
状況で締める
たとえば患者さんの急変。この状況では当然、空気は締まる。
緊張しすぎてガチガチになると、乗り切れる状況も乗り切れなくなってしまう。
だから、手を動かしながらも、会話には多少の冗談を混ぜる。 このときに許されるのは、オチが「頑張ろう」 という方向に向かう冗句のみだ。全く関係ない世間話や、昨日見たお笑い番組の話題を 振る奴がいたら、「空気読めない」奴とみなされる。
緩んだ状況では緩んだ空気、緊張を必要とする場面では逆。空気の挙動としては、 これは当たり前のことなのだけれど、リーダーが「空気が緩む」のを認められない人だと、 みんなが呼吸できなくなってしまう。
個人の意思は、事実の生み出す状況には逆らえない。
物理で締める
状況が切迫していなくても、人と人との物理的な距離が縮まるだけでも、空気は締まる。
病院での「お客さん」たる患者さんや、その家族が集まるときというのは、やはり空気が締まるときだ。
だから、ナースルームで家族の人を交えて話をしているときには、原則として関係ない人も口をつぐむ。
このときの空気は締まっている。締まった空気で使うのは、締まった言葉だ。 たとえば研修医の私語を注意するときでも、患者さんの家族が集まっている前ではきつい言葉を使う。
「きつい言葉」は、研修医の教育効果ではなく、患者さんの家族に対する配慮だ。 締まった空気の中で、だらしのない言葉を使う主治医は、信用を失ってしまう。
「みんなで集まる」というのは、空気を締めるときの基本だ。 距離で空気を締めるためには、どうしても実世界の中で距離を縮める必要がある。
少し前、航空会社のビジネスマンクラスのCMで、こんなのがあった。
部下:「ところで部長、この出張は何のためなんです?」 部長:「握手するためさ」
CMでは一種の「オチ」として使われていたエピソードだけれど、実世界ではこれと同じことは多い。
誰かに何かをお願いするというのは、「押す」行為だ。押しを効かせるには、空気は堅くないといけない。 緩んだ空気をいくら押しても、文字通り空気を押したようにかわされてしまう。 だからみんな、大切な仕事の用事は、お願いする相手のところへ歩いていく。
言葉で締める
空気は能動的にも動かせる。
他愛のないおしゃべりをしている中で、リーダーの語調が急に変わると、みんな驚く。 「何だ?」という緊張感は、自然に空気を締める。
リーダー役をやろうという人は、最低でも2種類の言葉を使い分けるべきだ。 普段の親しみやすい言葉と、空気を締めたい時の言葉と。
種類の使い分けは、人により様々。
- 普段丁寧語で、締めるときは乱暴な言葉
- 普段はおしゃべりで、緊張が必要なときには寡黙になる
- 表情やしぐさを変えて、言葉の調子を変えない人もいる
人によっては、2段階どころかもっと細かく変える。大事なのは、それが分かりやすくて、 また誤解を生まないこと。そして、「あざとさ」がなるべく少ない方法を選ぶこと。 だから、言葉の変更だけでは、ちょっと弱い。
実世界での会話というのは、言語それ自体だけでなく、表情やしぐさ、目線の合わせかたや 着ている服など、様々なものから成り立っている。
ネット上のやりとりでのトラブルというのも、こうした「言語外の会話」を利用しての 空気作りが不可能だという影響は外せないと思う。
「緩めかた」「押しかた」「引きかた」「応用」「空気が読めないとは」は、またいつか。