「どこでも同じ治療が受けられる」不幸

NHKスペシャルがん難民」を見た感想。

がん治療の専門医制度が出来て、今は日本中どこに行っても、ガイドラインに従った、 同じような治療が受けられるようになった(->コメント欄にて「まだまだそんなことはない」という指摘をいただきました)のだけれど、 「同じ」によって、むしろ幸せから遠ざかってる人が取材されてた。

薬の効かない人

化学療法を行ったけれど、十分な効果が得られなかった患者さん。 恐らくは切り出した組織を使った「抗がん剤の感受性検査」を受けて、「効く薬がありません」なんて、 主治医から宣告されてた。

今のがん対策基本法だと、治療の効果が得られない患者さんに残された選択枝は「ターミナルケア」なんだけれど、 その人はそんな結論に納得できなくて、そこからいろんな病院を探していた。

番組が作られた県内には、5つから10ぐらいの「がん拠点病院」という指定を受けた施設があるみたいだけれど、 その患者さんは、いくつもの拠点病院を回って、やっぱり「効果が薄いと思います」なんて説明を受けて、 6つめだかの拠点病院の外来で、はじめて「あるいは治療可能かも」なんて医師と出会って、 化学療法を受けていた。

番組では、その患者さんの満足度は高そうだったけれど、通院には時間がかかって、大変そうだった。

「同じ」は幸福につながらない

証拠に基づいた治療のガイドラインにしても、専門医制度にしても、あるいはがん拠点病院制度にしても、 こういう制度が目指しているのは、「日本中どこに行っても同じ質の治療が受けられる」世の中。

それはもちろん正しいありかただし、質を揃えることで、結果として多くの患者さんが、よりよい 治療を受けられるはずなんだけれど、取材を受けていた患者さんについては、 あるいは、医師から宣告された「結果」を受け入れることが出来ない多くの人にとっては、 「同じ」というありかたは、幸福につながらない。

「治療の効果は得られないと思います」なんて、正しくて、同じ答えを聞いたところで、 その患者さんの満足度は上がらない。

「同じ」を目指す、証拠に基づいた医療だとか、がん対策基本法みたいな制度は、 こうした患者さんから、逃げ場というか、すがる先というか、 選択枝みたいなものを奪ってしまって、結果としてそれは、こういう人達を不幸にしてしまっているように見えた。

代替医療はなくならない

恐らくは6つめの拠点病院の医師にしたところで、その人だけが知っている、 「効く」化学療法なんてものがあったわけではなくて、むしろそんなやりかたは、 ガイドラインから外れた、あるいはもしかしたら、論文上は「効果が薄い」なんて結論の出ている やりかたなのだろうなと思う。ガイドラインに従った他の専門家は、みんな同じく、その人には「効く薬がない」なんて 結論にたどり着いていたわけなんだから。

ガイドラインだとか、拠点病院が整備されて、たぶん日本のがん治療の水準は上がるんだとは思う。

医療の水準がどれだけ向上したところで、アガリクスだとか、波動水だとか、 そういう怪しげな治療が活躍する場面は、減るどころか、むしろこれからますます盛んになっていく。

専門化が進んで、逆に「その人に出来ること」が差別化できなくなった近未来には、 「専門家を見捨てた」患者さんが、ニンニク注射だとか、血液クレンジングだとか、 怪しい治療を行う外来に列なしたりするんだろうなとか、番組見ていてそんなことを思った。