業界の嫌話

同業者どうしの年末飲み会のメモ。内科と外科と、整形外科と、あと開業した人達。

  • 内科は減っている。外科も減っている。産科小児科は言及以前で、整形外科も、いろんなところで「減った」という話ばかり聞く。医師自体は増えているはずなのに、「どこに行ったんだろう」なんて、誰にも分らない
  • 開業する人は、それでもやっぱり増えている。うちの地域みたいな田舎でも、今年に入って少なくとも6件、新しいクリニックがオープンしてる
  • 新人がどこに行ったのか、やっぱり誰にも分らない。研修医がたくさん入ったはずの民間病院も、初期研修を終えた研修医はどこかに行った。「どこかに行った」研修医が行き着くはずの大学病院には、やっぱり誰も戻ってこなかった
  • 検診のアルバイトで食いつないでいる医師は一定数いるらしいけれど、不景気のあおりを喰らって、今そこそこ大変らしい。そういう人達が、流行っている開業医の軒先を借りて、「居候」するような形で勤務する形態が、少しずつ増えているらしい。まだまだ少数だろうけれど、案外馬鹿にならないのかもしれない
  • 大病院志向が強まったからなのか、大きい病院の外来は、ひどいことになっている、らしい。県内のがんセンターは、今年患者さんを紹介したら、初診を受けられるのが2ヶ月待ちという返事が返ってきた
  • もちろん2ヶ月間、むこうの医師がサボってるわけないから、それだけ患者さんが立て込んでいて、首が回らなくなっているらしい。大規模病院は、どこもなんだか患者さんが殺到して、部長級の負担が増えて、上の人達が辞めちゃうらしい
  • 部長のポストが空いたところで、今はもう、大学にも人を送るだけの余裕がないから、そういうところは、若手が部長になるんだという。名前を知っている人がそこそこいるような、それなりの規模を持った公立病院にも、今は30代の「外科部長」とか、出てきているらしい
  • 若い部長の誕生は、必ずしも喜べなくて、もう技術の継承が出来なくなるらしい。よしんばそこに、ベテランが就職を希望したところで、部長よりも若い人は、もうそこで「部下」になることは出来ないから、そんな病院には、もうベテランが入れない。外科みたい中は、手を引っ張ってくれるベテランがいないと、技術の継承が行われないから、若い部長が守る病院は、もう実質死に体になるらしい
  • 来賓としてきていた医師会長の挨拶があった。「この病院があるおかげで、我々開業医は枕を高くして眠れます。皆さんもこういう病院で働けて嬉しいでしょう。うちも経営を拡大して、そのうち救急医療に参加しようと思っています」だって。喧嘩売ってんのかと思った

「自分達が年とった頃には、もう診てくれる医師いないよね」なんて。

特に外科系の手技というのは、あらゆる失敗を経験するのが前提で教科書が書かれているから、教科書に正しいやりかたが記載されていたところで、それを読んでも、同じ技術を再現するのはすごく難しい。その患者さんが、教科書どおりの身体をしていれば、あるいは手術は成功するのかもしれないけれど、何かイレギュラーな事態が起きたとき、経験を伴わない知識は役に立たない。

専門医志向が強まった結果として、経験知抱えたベテランは、専門施設から「避難」して、専門家が要るべき専門病院には、残された若手が、さばききれない患者さん目の前にして、涙目で仕事をこなす。いろんな人がいい医療を望んだ帰結として、 どういうわけか、知識と施設との結びつきが滅茶苦茶になって、知識を持った人が、それを生かせる施設からいなくなってる。

「技術を伝えよ」なんて、お上のお達しはあるんだけれど、患者さん激増して、待遇ますます悪くなって、人も時間も減ったのに、教育の時間をひねり出すことなんて誰にも出来ないから、部長が辞めて、あと継いだ部長もまた辞めて、残された研修医は行き場失ってまた辞めて、診療科が 1年で崩壊した地域なんかが出てきている。

うちの地域なんかは、西のほうに比べれば、崩壊なんて他人事だったけれど、今はみんなが危機感持ってて、 それでもどうしようもなくて、みんな「ひどいよね」なんて分ってはいるのだけれど、じゃあどうすればいいのか、 どうすれば内科だとか外科だとか、生き死ににかかわるリスクを取る医師を増やせるのか、実際のところ、 自分が働いているこの場所に、そこまでの魅力を感じている「中の人」なんてもういないから、本当に難しい。

ファウンデーション」みたいなものを作るしかないのかなと思う。

いつかまた、そうした技術が必要になって、滅んだ技術を必要とする人達が増えるその時のために、 今ある知識とか経験、特に失敗経験みたいなものを、シミュレーションだとか、豚の実験だとか、 そういう「人でない何か」を通じて学べるような施設。

外科の先生と豚食べながら、「未来夢見て豚飼おうか?」とか話してた。