商売の生態系

近所にできたショッピングモールを見て考えたこと。

ショッピングモールができた

実際それができたのはずいぶん前なんだけれど、最初の数ヶ月は、平日でも近所が渋滞するぐらいの賑わいで、 最近になって、平日の夜間ならガラガラになって、ようやく地元住民が、便利に使えるようになった。

通うようになってみれば、けっこうきちんとした外食屋さんが何軒もあって、今までどうしようもなかった 田舎の食糧事情が、ずいぶん改善された。「食べに行こう」なんて思っても、せいぜい4軒ぐらいの選択枝しか 無かった昔を思えば、もう別世界。

で、通うようになって、ショッピングモールの外食屋さんには大きく2種類、 「そこでやっていく」ことを目指している料理屋さんと、 「今を売り抜ける」料理屋さんと、たぶん思惑が別れているように思えた。

そこでやっていく人たち

  • たいていは「東京の○○」というお店が、うちの県に初めて出店した、ということをうたっている
  • それがお寿司屋さんであれ、イタリア料理屋さんであれ、メニューには種類があって、「料理」できる人がいないと作れないものを出す
  • まだ店自体はできて間もないから、店員さんの対応はまだまだぎこちないんだけれど、「こいつを上客にしてやろう」みたいな意志を感じるというか、いつも店内に気を使っていて、緊張している

売り抜けようとしているお店

  • そのショッピングモールだと、「石焼き料理」を売りにする店と、「何でもドリアにして出す」お店がたぶんそうだと思った
  • 店舗こそ分かれているけれど、そのお店は厨房が地続きになっていて、片方は洋風陶器、もう片方は石の鍋なんだけれど、鍋を受ける木枠だとか、食器類は共通していた
  • 店が売りにするのは「調理方法」であって、どちらにしても、鍋に具材を放り込んで、暖めれば料理になるから、材料を仕込む人さえいれば、厨房は、アルバイトでも回せるように思えた
  • 実際問題、夜間の店員さんは全員アルバイトの人たちで、レジは外国の人が担当していたし、厨房は地元大学の体育会メンバーなんだか、 みんなで「次のバイトをどう回すか」の会議をやっていて、相当に大きな声で呼ばないと、店員さんが来てくれない
  • 店の対応はひどいんだけれど、「腕」のあんまり関係ない料理だからそこそこおいしく食べられて、何より「石焼き専門」なんて企画が珍しいからなのか、 初見の客は、自分たちも含めてけっこう入っていた
  • 恐らくは何年かすれば、そういうお店の賞味期限は切れるんだろうけれど、店舗を変えずに、「石焼き」を「釜飯」に変えても、 たぶん出費は最小限でいけるし、「鍋に具材を入れて暖めるだけ」の料理なら、材料を準備する人さえ技術を持っていれば、人を変えずに看板を掛け替えるのも、比較的低コストでいけそうな気がした

一蓮托生ルールで得をする人

ショッピングモールの大半は衣料品店で、残りのスペースに料理屋さんが入ったり、おもちゃ屋さんが入ったり、業態は様々だけれど、 たぶん「そこでやっていく」戦略と、「今を売り抜ける」戦略と、どこもそれは同じなんだろうと思う。

ショッピングモールは、そこに人が集まらないと商売にならないから、そこでずっとやっていこうと思っている人にとっては、 自分たちがいくら頑張ったところで、まわりが足を引っ張って、モール全体を盛り上げてくれなければ、お店はいつか、 ショッピングモールごと寂れてしまう。

一方で、売り抜け戦略をとる人にとっては、たとえば5年なら5年、まわりがどう頑張ろうと、店の賞味期限内に店の投資を回収できれば それで十分だから、接客だとか、料理それ自体の質だとか、そういうものを向上させようとか、たぶんあまり考えてない。

企画先行型のやりかたは、たぶん頑張っても、頑張らなくても売り上げはそんなに変わらない。だったらたぶん、 最小限の投資で、あらかじめ予想していた売り上げが得られたら、あとは「おまけ」で、商売のサイクルが短いから、 ショッピングモール全体の盛り上がりがどうなろうと、自ら投資して、盛り上げようとか、お客さんを引っ張ろうとか、 そういう気にはならない。

ショッピングモールというやりかたは、たぶん頑張る人が損をして、そこでやっていくひとの頑張りに「乗っかる」形で商売をする人が得をする構造になっている。将来的にはたぶん、企画先行型の、売り抜けを狙うお店が増えて、 そうなるとショッピングモールは盛り下がって、やがて人も減ってしまうのかもしれない。

マクロな話

ビルの設計をしていた人に言わせると、ショッピングモールというものにも、 10年で潰す建てかたをしているところと、 何十年も持たせる建てかたをしているところがあるんだという。

ショッピングモールというのは生活の中心になって、その周囲に住むと、生活がすばらしく便利になるから、土地の価格が上がる。 あらかじめ、どこにショッピングモールが作られるのか分かっていれば、その不動産屋さんは大もうけできるし、 たとえ無価値な場所でも、ショッピングモールがそこに作られれば、その土地の価値は、一気に上がる。

ショッピングモールというのはそういう存在なのに、巨大な建物が造られる中、やけに「撤退」を意識した、 壊しやすいような建てかたをしているショッピングモールというのがあって、そういうところは要するに、 土地が売れたらさっさと撤退して、地元住民が途方に暮れる中、次の「無価値な土地」に、何事もなかったように、 次のショッピングモールを作るんだという。

ショッピングモールの中の店と同様に、モールそれ自体もまた、「そこでずっとやる」ことを目指している会社と、 「今を売り抜ける」ことを目指している会社とがあって、それを見誤って「いい買い物をした」なんて、 高い土地を買ってあとから泣く人というのは、必ずでるんだという。

成果最大と損失最小

自分はずっと借家だし、病院に近いことが選択の全てで、近所にできたショッピングモールというのは、 単に「ラッキーだったな」としか思っていないんだけれど、たぶん同じ商売をするにしても、 「成果最大」を目指す人と、「損失最小」を目指す人とがいて、前者を目指すなら、 よっぽど頑張らないと失敗するし、後者は逆に、めざとく「頑張る人」を見つけては寄っかかって、 その人が疲れたら、速やかに「次」を探さないと、共倒れになる。

自分はどっちが向いてるんだろうとか、ちょっと考えた。