ルールを解説してほしい

ニュース番組が、最近はもう政治一色で、自民党のやりかたがけしからんだとか、今こそ政権交代をだとか、 ニュースキャスターや、政治評論家の人は、どのチャンネルをつけても同じことばっかり繰り返す。

たとえば将棋番組の解説者みたいな、その状況を、素人目にも面白く解説してくれるような、 政治番組の世界にも「解説者」に相当する職種を用意して、「評論家」とは別に、「解説者」の 談話を報道する番組ができたら、ニュースは今まで以上に面白くなるような気がする。

政治というルール

政治家の人はもちろん、「国益」のために、「有権者の皆さん」に政策を考えるのがお仕事だけれど、 「政治というゲーム」には、もちろんいろんなルールがある。

政策を考えることだとか、地元の有権者に、自らの考えかたを分かりやすく説明することというのは、 あれは政治というゲームにおいては「技」に相当するものであって、ルールとは違う。たとえば政治家が、 地元に帰ってお金をばらまいてみせたりしたら、それは「ルール違反」であって、その政治家は、 政治というゲームから、追放されてしまう。

「政治というゲーム」に参加する人が目標にするのは、議会という舞台に、選挙を勝ち抜いて、 そこに立ち続けることであって、政策の考案だとか、政治力の行使だとか、それは単なる戦略、 たくさんある技の一つに過ぎない。「すばらしい政策を考案すること」や「地元有権者と宴会を開くこと」、 あるいは「地元有力者に土下座すること」といった様々なやりかたには、ルールの前に等しい価値を持って、 どれが優れているとか、ましてやどれが「正しい」とか、それを評論家が論じたり、 憤ったりしてみせるのは、どこかおかしい。

政治番組というゲーム

ニュースキャスターが「お茶の間の意見を代弁してみせる」形式はもう出尽くして、 チャンネルごとの差なんて無いに等しいから、こんどはそろそろ、「政治というゲーム」を解説する、 様々な陰謀だとか、戦略を仕掛ける側の思惑を代弁するようなニュース番組を見てみたいなと思う。

今のニュース番組は、「政治家は基本的に真実を述べていて、ニュースキャスターは、 国民の思いを代弁する」という建前で作られているけれど、「政治家はそれぞれの立場を最善にするよう、常に小さな嘘をつくき、報道機関はそれを編集して、面白さを最大化するように加工する」という、報道番組本来のルールに基づいて、 それを技術論として解説する、政治の意図だとか、政治家の主張については、あえて一切介入しない番組を作ってほしい。

政治家の人は、政治というゲームに勝ち抜くために様々な技を考えるし、マスメディアの人たちもまた、 たとえば「ニュース番組というゲーム」に勝ち抜くために、政治家の振る舞いを、なるべく「面白く」しようと、 あれこれ思惑を巡らす。2つのゲーム、2つのルールが重なった結果として、たとえば「政治番組というゲーム」が 生まれて、政治評論家を名乗る人は、そういう状況を解説するのでなく、むしろひたすら盛り上げて、 あの人たちもたぶん、「政治評論家というゲーム」を、自分たちなりのやりかたで戦っているのだと思う。

戦いそれ自体よりも、むしろ「解説」を聞いてみたい。

「この状況でのこのコメントは、世論を誘導するのにあとから効くんですよね」だとか、 「この話題のかわしかたは、たぶん電通パブリックリレーションズのやりかたですね」とか、 あるいは「これは上手な編集ですね。このあとに出てくる笑顔がカットされることで、 この政治家のイメージはこれで一気に悪くなりました」だとか。

解説されると冷静になる

「○○党は○国の手先だ」みたいな陰謀論というのは、たぶん「ない」というのが正解なんだろうけれど、 政治家は政治の舞台に立ち続けないといけないし、ニュース番組を作る人だって、限られた時間で、 限られた予算で、撮影された映像を、可能な限り「面白く」報道しないと、視聴率競争に負けて、 最終的に、ニュース番組という舞台にいられなくなってしまう。

「真実を伝えること」なんて、それは「面白さ」という、報道というゲームを支配するルールから見れば、 プレイヤーが選択できる「技」の一つに過ぎないし、「真実」が、残念ながら「面白さ」を獲得するための 戦略として、事実上機能しない、「真実を伝えよ」なんて騒ぐ人たちが、真実の報道に対して、 何ら対価を支払わなくなったからこそ、「真実を報道する番組」が無くなってしまったのだと思う。

違ったルールで戦っているプレイヤーに対して、「真実の報道していない」なんて叩くのは、 総合格闘技を戦っている選手に対して、「相手を蹴るのは男らしくない」なんて、 観客が文句をいうようなもので、選手にしてみれば困ってしまうと思う。

ニュースというのは、そもそもが編集されて、「面白く」加工されるのがルールなのだから、 ルール自体を解説して、可視化する番組があったら、きっとみんな冷静になれる。

道路の報道なんかで、議員の人が、明らかに無駄っぽい道路を「これは必要なものだと思います」なんて答弁する。 それに対して「あいつは何を言っているんだ」なんて、政治評論家の人が、国民の声を代弁して、政治家を叩く。

こういうのは、政治の人は政治というルールを、政治評論家の人は、政治番組というルールを、それぞれ 戦っているのであって、その戦いを「解説」してくれる人が、今のニュース番組には、欠けているような気がする。

叩かれれば、みんな憤って盛り上がるけれど、物事はそんなに変わらない。この番組を、 たとえば「あの答弁で、彼はこの冬の秘書の給与が払えますね。あの事務所は最近人増やしたから、 今大変なんですよね」だとか、「今の叩きかたは切れ味十分でしたが、最後に口元が綻んでしまった絵を 報道されてしまったのは、彼の立場を難しくしたかもしれませんね」だとか、政治の楽しみかた、 ニュース番組の見どころを、「解説」してくれる番組があれば、みんなもっと、 今の状況を楽しめる。

政治だとか、ニュース番組だとか、あれだけのお金をかけて、たくさんの「役者」が舞台に登場して、 「真実」に、それぞれの思惑を投影して、そこから切り取った「絵」をさらに面白く加工して、 みんな生き残りをかけて、いくつもの複雑な技術が生み出されては、毎日のように覇を競う、 あの光景を見て、あれを憤りの感情一択で消費してしまうのは、あまりにももったいないと思う。