Power Point 力業
「今度の地方会、君の患者さん出すから準備しといてね」
こんなことを上司に宣言される地方会直前。
グラフ作成ソフトに数字打ち込んでる余裕なんてない時は、 Power Point で図版を全部手打ちする。そんなやりかた。
「分かりやすい経過表」の考えかた
地方会のスライドは10枚。表紙に1 枚、現病歴と検査所見、画像の紹介に1 枚づつ。 まとめや考察、結語にそれぞれ1 枚使って、残るのは真ん中3 枚ぐらい。
ここまでは比較的簡単。カルテを丸写しすれば現病歴は作れるし、検査の数字を写したり、 画像を取り込んで切り貼ったりするのも、単なる作業。考察を考えるのは、さすがに上級生の仕事。
問題なのは真ん中3 枚。これを使って患者さんの診療経過を表現するんだけれど、 カルテから代表的なデータを拾ってきて、それを視覚化して上手にまとめるのは難しい。
本来ならば、情報の視覚化こそが、スライド作成の腕の見せどころ。 締め切りが近いときにはそんなこと言ってられないから、他人様の発想を借りてくる。
具体的にはこんなことをする。
- PubMed を使う:「Limits」を選択して、「links to free full text」「Case Reports」にそれぞれ チェックを入れてから病名を検索すると、PDF がダウンロード可能な症例報告だけが残る。症例報告には、 たいていの場合経過表がついてくるから、それを見ながら考える
- Google を使う:Google のイメージ検索で「clinical course」という言葉を検索すると、 いろんな病気の臨床経過表が引っ張れる。それを参考にして経過をまとめる
- PowerPoint 検索:病名を検索するとき、「.ppt」という文字列を一緒に検索すると、 パワーポイントプレゼンテーションだけが検索できる。運がよければ、「そのものずばり」のスライドが ダウロードできる
たとえばPubMed からこんな表を引っ張ってきて、それをPowerPoint で作ることにする。
Internal Medicine 35: 315-318, 1996 より引用。
これを作るのに必要なものは3つ。
- 治療経過を書くための横棒グラフ
- 日程や単位を記載するための目盛り軸
- データを視覚化するための折れ線グラフ
これさえ描ければ、見た目は同じスライドが作れる。
横棒グラフ
治療薬や酸素投与量を書くときに使う横棒グラフは、ただの四角形。
PowerPoint のメニューから四角形を選んで、適当に大きさを調整すれば大丈夫。
「線の色」と「塗りつぶしの色」を同じに指定すれば、輪郭線を消すことができる。
目盛りのついた縦軸、横軸
最初に必要なのが、目盛りのついた軸。
PowerPoint の線描画機能だけでこれを作ると、 後から「もう少し伸ばしたい」なんて思ったときにドツボにはまる。
伸び縮み可能な目盛り軸は、以下のように作る。横目盛りの場合。
- まずは小さな縦棒をひいて、それを必要な数だけコピーする。これが目盛りになる
- 全ての縦棒を選択=> 図形の調整=> 配置/整列=> 上揃え で一列に並べる
- もう一度全ての縦棒を選択=> 図形の調整=> 配置/整列=> 左右に整列 で等間隔にする
- 等間隔に並んだ目盛りにくっつける形で横棒をひく。これが軸になる
- 最後に全てを選択=> 図形の調整=> グループ化 で一つの固まりにする
これで、長さ、幅とも自由に調整可能な目盛りが作れる。縦軸も同じ。
折れ線を作る
経過表に必要なのは、目盛りのついた軸と、あとは折れ線グラフ。
たとえば温度板をスライドにするときとか、検査結果を図表にする時なんかは、 全部折れ線グラフのお世話になる。
時間がないとき、エクセルは役に立たない。まめにデータを打ち込んでる人は いいんだろうけれど、発表直前になって資料引っ掻き回すようなときには、 数字を打ち込む余裕なんてない。結局手書き。
やりかたは、PowerPoint 上に適当に折れ線を作って、 後から目盛りに合わせて、あるいは感覚に従って、 折れ線の「関節」をいじって、思う形に近づけていく。
- オートシェイプ=> 線=> フリーフォーム を選択
- Shift キーを押しながらクリックしていくと折れ線がかけるので必要なだけ折れ線をひく
- 折れ線を右クリックすると「頂点の編集」という項目があるので、これを選択する
- 折れ線のすべての「関節」が移動可能になるので、あとは適当に形を作って、全体の帳尻をあわせる
- 折れ線の下側を塗りつぶすときには、形を作ってから折れ線を右クリック=>閉じた曲線でOK
最後に、前に作った目盛り軸と折れ線とを全て選択して、図形の調整=> グループ化 を行っておく。
こうすると、最後に全体のバランス見ながら微調整するのが簡単になる。
作例
引用した図を実際に作ると、こんなふうになる。
データは全ていいかげんなものだし、グラフも正確でないけれど、雰囲気は伝わると思う。
実際問題、google でいろんなプレゼンテーションをダウンロードして見て、 「上手な図表だな」と思ったものは、たいていが「力業」で手書きしていて、 エクセルなんて使っていない。洋の東西を問わず、医師は案外ズボラだったり。
「手書き」は下品なやりかたなんだけれど、結構役に立つ。