道具バトン

Dan さんから受け取った道具バトンなるものを書いてみます。

医者の仕事場というのは、たぶん想像されている以上にモバイル要素が強くて、 一箇所にとどまって何かするということがほとんどありません。

そんなわけで、普段使っている道具というのも白衣に収まるものばかりです。

1. 万能バサミ

研修医の頃にもらった、ごっついハサミをまだ持ち歩いています。

本来の用途は、心臓が止まった人の衣服を切り裂くためのもので、 厚い生地などでも4~5枚、まとめて一息に切れます。 どこのホームセンターにも売っていて、大体500円程度。

丈夫で良く切れる」が表の意味、「安くていつでも取替えがきく」というのが 裏の意味で、病院に就職したとき、研修医という存在の象徴として、 病院長からこのハサミをもらったのです。

亡くなった人の服からお菓子の袋まで、みんなこれで切っていました。

研修期間を終了すると、修了記念として、メッツェンバウム筅刀という、 繊細で高価なハサミをもらえます。

2. ボールペン

医師の仕事の半分ぐらいは、カルテや書類などの「記録」に費やされます。

複写の書類が多いので、筆記具はほぼ100% ボールペンです。

軽くないと仕事にならないので、100円程度の使い捨てのやつを 何本も持ち歩きます。最低3本。

たとえば、外来をやりながら隣で包帯交換を するときなど、やりかけのカルテにボールペンを挟んでおいて、 一度に2つ3つの仕事を並行してこなしていくわけです。

ノック式の3色ボールペンは、患者さんに絵を描いて説明する時の必需品。

バイアグラとか、オメガシン(抗生物質)なんかの「強そうな」名前の入った 製薬会社のボールペンが人気なのは、この業界がまだまだ男社会だからでしょうか。

メモは使いません。ほとんどは暗記。

研修医は、ボールペンで左手の甲にメモを取ります。ボールペンのインクは、 病院にはどこにでもあるアルコール綿で消せるので、ホワイトボード感覚で 自分の手を汚します。

3. Palm

Tungusten|c に薬の本と、抗生物質の使用ガイド、英語の辞書を入れて使用中。

これを使うようになって、白衣が劇的に軽量化されました。

その場しのぎを繰り返す仕事なので、PIM機能はほとんど 使っていません。

昔はとりつかれたように palmware を探しては入れて遊んでいましたが、 今使っているのはメモ帳だけに落ち着きました。

Treo700 が日本で使えるようになるといいのですが。

4. 聴診器

代表的な医師の仕事道具ですが、いまだに現役。

ハイテクの医療機器が次々出ていますが、「立ち上げ時間ゼロ」という、 この道具のメリットを凌駕できるものはいまだにありません。

昔は循環器用の高性能なものを使っていましたが、 重いので、いまは汎用品。

5. 蛍光色鉛筆

教科書を読むときには、必ず線を引きます。

洋書は安いのですが、装丁も紙質も悪いものが多いので、 蛍光マーカーを使うとにじんだりします。

蛍光色鉛筆は文字どおり鉛筆なのですが、銘柄によっては 蛍光マーカーとまったく同じ発色が得られます。

LYRA のFLUORLINER99 というのがとてもよかったのですが、 今は手に入らなくなってしまい、今はSANFORD のPRISMACOLORの ネオンイエローを使っています。

番外:デバイダー

科によっては、自分の所属を象徴する道具があります。

神経内科なら打鍵器、眼科なら眼底鏡など。持ち歩ける大きさで、 その科しか使わない道具。

循環器科は心電図を読むので、不整脈の診断をするのに デバイダーを使います。

今はもう、自分は循環器ではなくなってしまったのですが、 出自に対する思いを忘れないよう、今でも必ず持ち歩いているのです。