ラボで成功する法則
- 自分が何をしているのかさっぱりわからない時でも手際よく作業する。
- 実験結果には再現性がなければならない。つまり常に同じところで失敗する必要がある。
- はじめにカーブを描き、次にプロットせよ。
- 経験とは、壊した器具・装置の数に比例する。
- 実験データは貴重である。あなたが何か研究しているという証拠になる。
- 報告にまず力を入れよ。
- どうしても解答を得られないときは、まず解答から始めて質問を導き出せ。
- 疑わしき結果でも、説得力のある結果に仕上げよ。
- 奇跡を信じてはいけない。奇跡に頼るべきである。
- チームワークは基本である。失敗しても人のせいにできる。
臨床研修の現場でも、忙しくなると同じことをしたくなるような圧力が働く。
誰でも他より出来る奴だと思われたい。臨床の現場には常にレジデント同士の競争がある。
研修医一人一人の時間は限られている。受け持ち患者の数が多くなるほど病棟への足は遠のき、検査結果を確認する手間は惜しくなる。
結果、「○○さんの調子はどう?」などという上級生の質問が出たとき、「まだみてません…」と答えざるを得ないときが来る。
このとき、素直に見ていないことを告白できるなら、その場で怒られるだけですむ。
一方、怒られるのがいやだ、のろまな研修医にみられるのがいやだという心理は誰もが持っている。こうした場面で患者をみてもいないのに「元気でしたよ」と答えても、まず8割がたは何事もなく済む。
こうしたことが繰り返されていくと、患者をろくに診もしない「できる研修医」、外来からの入院オーダーが入った瞬間、患者さんに会いもしないうちから2週間先までの検査オーダーを入れてしまう「要領のいい研修医」が出来上がる。
ウソの連鎖はやがて取り返しのつかない事故につながる。ウソをつかなくてもすむ雰囲気、ウソを告白することを咎めない雰囲気を病棟に作るのは結構大事なのだが、ともするとそれは「ヌルい」空気になってしまい、研修医の生活がだれてしまう。
研修期間は安全であればあるほどいいのだが、一方でどこかのタイミングで研修医には自分の限界を超えてもらわないと成長しない。事故を防ぐには受け持ち患者数は15人程度で制限すべきなのだろうが、どこかのタイミングで一度は30人持ち、50人持ちの世界を経験してもらわないと、研修医の限界は広がらない。
30人も受け持つと、患者さんの顔と名前が一致しなくなる。その世界でも上級生のサポートがあれば結構働けるもので、最初は悲壮な顔をしていた研修医も1週間もするとまた笑顔が出るようになる。
「自分でも一時的にはそのぐらい働ける」ということを実感してもらえたら、次は50人持ちの世界。顔と名前が一致しないのを通り越して、患者さんとは毎日が初対面。病棟スタッフの助けがなければ絶対にこなせない。今まで個人のがんばりで何とかしていた研修医でも、どうやったら周囲の協力を引き出せるのかを真剣に考えるようになる。
一瞬の50人持ちに耐えられるということ、 それは永遠に耐えられるということ。
こうして研修医は鍛えられていく。
昔は本当にこうしたむちゃくちゃな方法で鍛えられたが、それでも当時から「君たちの世代は甘い」と怒られどおしだった。自分の研修病院だけが特殊なんだろうとそのときは思っていたが、後年いろいろな病院を転々とするようになって、自分の病院だけがむちゃな環境ではなかったことを知った。
必要もない修羅場に研修医を叩き込む教育法は確かに危ないのだが、こうした経験のない研修医がそのままスタッフになったとき、外病院でまともな対応ができるのだろうか?研修医の安全性が重要視されるようになったのはここ5-6年ぐらいだが、その人たちが10年目になった頃、その結果がわかると思う。