実用的な知識/文句を言ってくる人

ある日、ファラデーが一心不乱に電池をいじっていたときに、ある貴婦人が訊ねた。 「そんな役にもたたないつまらないことをして何になるんですか?」 ファラデーはこう答えたという。 「生まれたばかりの赤ん坊が何の役にたつというのですか?」

現場で医者をやっていくのに必要な知識は、うんざりするほど実用的なものばかりだ。

覚えるだけでいやになるようないわゆる「医学知識」とは別に、医師はいろいろなことを覚えなくてはならない。

看護師さんに優先的に自分のオーダーを受けてもらうためのコミュニケーションの方法 「この経腸栄養を使うと便がゆるくなっておむつ交換が大変」などといった汚い部分の知識 「退院を渋る家族に退院の話を切り出すときは、高齢の奥さんが一人でいるときに集団で取り囲め」などといった別の意味での汚い知識

医者を続けてきた中で、高尚な科学的な知識よりも、こうした実用的な知識、下世話な知識、病院という一般社会とは毛色の変わった場所で生き残って医者を続けていくための知識には非常に興味がある。

こういう知識は収集するのが難しい。一般化できる部分が少なく、病院ごとにローカルルールが異なるために意見の集約が困難。誰も大事な知識だと思わないためあえて公開しようとする人もいない。当然、こんな話題を医学雑誌に投稿しても採用されるわけもない。

「こうしたら便利」的な知識は、それが下世話で具体的であればあるほど実用的で、自分の病院生活に役に立つ可能性が高い。一方、具体性が高いほど「患者さんの下世話な話」を公開することにつながり、その公開の方法が難しくなる。

さらに悪いのは、医者が下品な知識を交換/公開するのを同業者がとがめることで、「そんなことは医療従事者が話題にするべきではない」「熱心な医者ならそもそもそんなことは考えない」「そんな話題を口にするものには医師の資格はない」といった意見には悩まされる。

掲示板への書き込みやメールでのクレームは、まだコミュニケーションの方法もあるのでましなのだが、なんと言っても凹むのがメーリングリストで批判的な話題の種にされること。

ある日なぜか自分のページのアクセス数が増え、googleを引いても何が起こっているのか分からないまましばらくして、「国際的な視点から」患者のための医療とやらを推進するメーリングリストでさらしものにされているのに気がついたときは本当にいやな気分になった。

これはもう欠席裁判もいいところで、せめて反論の機会ぐらい与えろよと思う。

明らかに自分よりも社会的な地位の高い、たぶん国際的な舞台で活躍しているような先生がたは、なんで直接文句をいわずに、メーリングリストのようなクローズドな世界で人のサイトを批判するのだろう。

批判する時間があったなら、もっと有益でもっと役に立つ情報、ノウハウを公開して、うちのサイトで公開している情報がいかに無意味で、価値のないものなのかを証明して欲しい。

もともと何らかの「呼び水」にでもなればと思って作ったページだし、自分もぜひともそうした「きれいで役に立つ」マニュアルが欲しいのが本音なのだが。

同じ目標でもっと優れた人に出会えるのはネットの醍醐味だと思う。同じ目標を持った人は少ないのだろうか?単に自分だけが変わっているとは、あまり思いたくない…。