USAMRIID Blue Book 第5版

USAMRIID Blue Bookの第5版がいつのまにか出ていた。

アメリカ同時多発テロが会った当時、自分は米軍基地のすぐ隣の病院で勤務していた。当時5階にあった職員食堂からは米軍の輸送機の識別番号が肉眼で読めるほどで、基地にたいしてテロを仕掛けるならばこれ以上は無いぐらいの立地。

911のあった翌日からは基地周囲では検問が行われ、もう緊迫感ありあり。もともと街中にある基地なので、基地の真中を公道が走っているのだが(病院への近道だった)、そこも朝夕を問わずに米兵が巡回するようになった。

そんな矢先に炭疽菌の騒動が続き、医局会でもその対処が問題となった。もともと米兵の家族なども来院する病院でもあり、このときばかりは他人事ではない。そもそも炭疽菌感染症など診たこともなく、手元にある資料はサンフォードの感染症ガイドのみ、これにしてもまだまだバイオテロ関係の記載などは乏しく、もし患者が来たらどうするのか、そもそもこれは医療従事者に2次感染するものなのか、ニュースで炭疽菌の報道が始まった直後はまったく情報が手に入らなかった。

当時は病院内のインターネット環境も貧弱で、使える電話回線は1本のみ。バイオテロならもう、CDCかUSAMRIIDのどちらかだろうということで見つけたのがこのマニュアルだった。

世の中には結核をはじめとして治療のガイドラインはいくつも出ているが、現場ではじめてこうした感染症に遭遇した場合に役に立つものは本当に少ない。

BlueBookでは総論の部分で「医療従事者が生物兵器犠牲者に接する前に、まず自らを守るステップを踏まねばならない。」とうたっており、まずは医療従事者が患者さんからどう身を守らなくてはいけないのか、どうしたら周囲の(健康な兵士を)安心させられるのかから議論が始まっている部分でやはり本気度が違う。

炭疽菌騒動のとき、結核アウトブレイクに遭遇したとき、常に問題になったのが「本当にこれで十分なのか?」という答えがガイドラインの中からはほとんど見つからないことだった。

手洗い場所はナースルームで教養で本当に大丈夫なのか、ガウンテクニックを行うにしても、個室に入った感染症患者の真横に白血病の患者を入院させても本当に大丈夫なのか、個室の空気を入れ替えるにしても、HEPAフィルターなど手に入らない状況で空気を大気に開放しても、本当に周囲の住民は安全といえるのか、こうした質問を受けても、自分には答えるすべがまったく無かった。

実際に日本でガイドラインを作っているえらい先生方で、普段病院で臨床をしている人はどれぐらいいるのだろうか。無償で公開されているCDCのガイドラインを「病院における隔離予防策のためのCDCガイドライン」と銘打って有償で販売している時点で、日本の感染症の先生方は感染症と戦う気がどれぐらいあるのか、疑ってしまう。こういうものはきれいに製本して販売するのではなく、PDFでさっさと公開して、一人でも多くの人に読んでもらうほうが有効だと思うのだが。

致命率や熱源別でなく、医療従事者への感染危険度順に並べた感染症のマニュアルを作っても面白いかもしれない。