専門家は結論を出せない

病院は「(開業医は)患者を救急搬送したら、墨東に入って手伝ってほしい」と提案した。
開業医たちは「なぜ医師を補充しないのか」「公立病院の責務はどうなったのか」と反発し、
議論は2時間半に及んだが、具体策は決まらなかった。
毎日新聞ニュースより引用

墨東病院産婦人科を今後どうしていけばいいのか。昨年行われた、 病院のスタッフと、地元で開業した人達とが集まっての話しあいの記事。

政府だとか、行政の人達、現場をろくに見もしない素人が提案する「政策」なんてものはたいてい的外れで、 現場にとってはむしろ有害なことが多くて、だからこそ、現場を知り抜いた専門家が、集まって話しあう。

集まって、話しあって、開業医側は、「俺たちにもっとおいしい患者を回して、 墨東は文句言わずに厳しい患者を受けろ」なんて意見。そもそも墨東病院に手が足りてないのは 誰が見たって明らかだから、墨東側は「手伝って下さい」なんて、当たり前のこと言っただけなのに、 結論のでない泥仕合になって、現場を知ってる専門家は、お互い話しあった帰結として、 「政府はいったい何をやっている」なんて結論を出した。

いろんなところでグダグダしてる

新型インフルエンザの対策も、病院施設長同士の話しあいが去年から続いていて、結局何も決まっていない。

これなんかはむしろ、行政側は「どうしていいのか分らないからお願いします」ぐらいのスタンスで始まったのに、 地域の大きな病院が、公立市立問わずに集まって会合開いて、「先生のところ、リーダーどうです? 」なんて、 もう2 年間も譲りあいを繰り返してる。

大学に残る研修医は、今年もまた減ったらしい。

自分達の頃、残る研修医が100人割り込んで、「大変だ」とか騒いでたのに、対策をどうするとか、 何か新しい研修カリキュラム作るとか、誰か「客寄せパンダ」的な、有名な先生を講師として招聘するとか、 そうした試みは一切なされないままに時は過ぎて、年を重ねるごとに、残る研修医は半減を繰り返してる。

専門家同士のグダグダというのは、何となく、うちの業界だけじゃなく、 あらゆるところで共通なのかな、と思う。

「声の大きな素人」が専門家を統治する

道路行政はある時期、専門家でもなんでもない、ルポライターの猪瀬直樹氏が仕切ってた。

安倍内閣時代の「教育再生会議」には、「ヤンキー先生」をはじめ、やっぱり教育の現場とは それほど縁のなさそうな人達が集められて、政策を提言してた。

道路の業界にも、あるいは教育の業界にも、現場のことをよく知る専門家がいて、 問題を抱えた政府の人達は、最初はさすがに、専門家の助力を求めたはず。

専門家が集まって、たぶんグダグダするばっかりで、もしかしたらあまつさえ、 「政府はいったい何をしているんだ」なんて「結論」が専門家から提出されて、 政府はどこかで、専門家を見限ったのだと思う。

専門家から「これは政府の問題」だなんて、問題を返されたら、もう専門家には頼れない。

政府はだから、どう見ても専門とは遠い、ただ声が大きいだけの「素人」を招聘して、 アドバイザーとして、彼らの声を頼らざるを得ない。

恐らくはこういう構図は、「専門的な」あらゆる業界で繰り返されて、これから先、増えていく。

素人を笑えなくなると思う

医療の業界は、どこを見渡しても「今すぐどうにかしないといけない」なんて切迫した問題ばっかりで、 今のところはまだ、問題を解決するために、現場を知ってそうな専門家が招集されている段階。

専門家がこれからいろいろ話しあって、やっぱりそれで結論が出せなかった分野については、 今度はたぶん、「現場を知らない素人」が集められて、現場の専門家は、その人達の考えかたを押しつけられる。

あと数年もしたら、医療のどこかの分野には、タレントの西川史子 氏だとか作家の久坂部羊 氏、 あるいは「医療ジャーナリスト」の伊藤隼也 氏あたりがトップに君臨して、 「専門家」は彼らに頭を下げて、自らの考えかたを奏上して、ありがたく予算をいただく、 そんな時代が来るような気がする。

「現場をよく知る専門家」というのは、たぶん誰か素人にお尻を蹴飛ばされないかぎり、 頭抱えて、ずっと悩んで動けない。自らはまり込んだ穴から、自力で抜け出せるといいのだけれど。