約束志向について

恐らくは「最新の約束が最重要」というルールで、お客さんの問題を解決していくやりかたが、サービスとして、 顧客を最も快適にするのではないかと思う。

病棟移動のこと

ずいぶん元気になった患者さんがいて、過去に何回か入院した経験を持つ方で、この人から、 「なるべく早く、リハビリ棟に行かせて下さい」という要望があった。

医学的にももっともなお話で、たしかにリハビリ棟のほうが、床の段差も少なくて、歩きやすかったものだから、 病棟の移動を手配して、移動できたのは3日後だった。

病棟を移動するに当たっては、病棟どうしで引き継ぎを行わないといけないし、ベッドの数だとか、その日に勤務しているナースの 数だとか、お互いの事情というものがもちろんあって、思い立ったらすぐ、というわけにはなかなか行かない。

一方で、病棟を移動しなくても、患者さんに対するケアは同じように行えるし、リハビリ病棟よりも、 急性期病棟のほうが、医学的には手厚いケアができるから、移動を急ぐ理由は、たしかに病院側にはそんなに多くない。

で、ほんのちょっとしたずれが積み重なって、移動は3日間延びて、「医学的には」その3日間というものは、なんの問題もない3日間だったのだけれど、 患者さんにとってのその3日間は明確な「待ち時間」であって、トラブルにこそならなかったけれど、やっぱりずいぶん待った気がしたみたいだった。

iPhone は良くできている

今勤務している病院の医局には、iPhoneiPADXperia とメガネケースと、たいていのスマートホンを誰かが持っていて、 自分は普段、DoCoMoHT-03A という、Android の携帯電話を使っている。

時々触らせてもらう iPhoneは、押したらとにかく「押された」という反応を返すのが見事だと思う。

アンドロイド携帯だと、新しいのはそうでもないけれど、どこか画面をタップして、反応するまで、ごくわずかな遅延が入る。 この遅延はごくわずかなのに、反応がないから二度押しして、せっかく開いたアプリが、開いた瞬間に閉じてしまったりとか、 今でもよくやる。普段HT-03A だけ使っている分には、それをそこまで不便と感じないのだけれど、iPhone みたいな機械を 使わせてもらうと、快適さみたいなものが、はっきりとした違いとして感覚できる。

昔ながらの機械スイッチは、押したらボタンが沈む。押したという満足が、押した瞬間、すぐ手に返ってくる。 タッチパネルにはそれがないから、ボタンをタップした後、機械がそれを認識したのかどうかは、 目で見て確認するしかない(Desire は振動を返してくれるらしい)。

フィードバックの速さというのは、恐らくは快適さに直結するのだと思う。

約束志向インターフェース

  • 機械スイッチは、ボタンを押して、「押されたよ」というフィードバックがまず返って、それから「押したよ」という指令が、機械側に行く
  • タッチパネルだと、ボタンを押して、指示が機械に入って、機械が判断してから、「押されたよ」という反応を返す

動作として、より「正しい」のはタッチパネルのほうだけれど、人から見たとき、より「自然」に思えるのは機械スイッチのほうで、 こういう動作の流れを作り込むことで、快適性が増すんじゃないかと思う。

たとえばタッチパネルの外周2ドットぐらいに、見えない額縁をつくって、ボタンを押された、タップされたと機械が認識したら、 そこの色が一瞬変わるとか。OSの動作を書き換えなくても、「タップされたらとりあえず光と音を出す」だけのアプリを常駐させておいて、 他の動作は今までどおり、というやりかたでも、快適度が増す気がする。ユーザーを、単に騙してるだけのアプリだけれど、 上手に「騙す」ことというのは、恐らくは快適を生み出す上では、とても大切なことなんだと思う。

恐らくはサービスを受ける側の人は、「直近の約束」を、最も大切なものとして考える。

いくつかの問題があったとして、「重要なものから解決していく」やりかたと、「最初に以来のあったものから解決していく」やりかたと、 「最後に約束したものから解決していく」やりかたと、問題解決の序列には、だいたい3とおりが考えられるけれど、 そのやりかたが、たとえば「医学的に正しい」のかどうかはさておき、お客さんから見たときに、最も快適なやりかたは、 「最後の約束から最初に解決していく」順番なのではないかと思う。

約束を重ねていって、時系列に沿って解決を行っていくのではなく、上に重ねたら、重ねたものから順次解決していくほうが、恐らくは 満足度は上がる。時系列のほうが、まだしも正統なように思えるけれど、恐らく人は、約束を交わすと同時に、そのことを、すごい勢いで 忘れていく生き物でもある。

病院の待ち時間だとか、サービスのありかただとか、快適を演出する機械とか、問題解決の順番を工夫することで、 待ち時間から生み出される不快を減少させることができるような気がする。