機会の均等とオークション制度

「青信号」オークション

「青信号」をオークションで購入できると、きっと面白い。

ある程度の対価を支払ってでも急ぎたい人は、自分の車にETC みたいな機械を積んで、 信号機に近づいた時点で「入札」を行って、「青信号」の競売に参加する。

信号機の切り替えが60秒ごとだとしたら、その時間の半分、前後15秒間づつがオークションの時間。

信号機が「赤」ならば、一刻も早く「青」にする権利に入札するし、信号機が「青」ならば、 自分が渡りきるまでの時間まで「青」でありつづけるよう、信号機周辺50m ぐらいの車は、 すべてオークションに参加する理由が発生する。

オークションは、ビックレー方式で行う。このやりかたは、もっとも高い金額を入札した人に 権利が発生するけれど、支払いは「2番手」の金額。オークションの主催者が信頼できる 限りにおいて、「青信号の本当の価値」をすばやく決定できるやりかた。

信号が空いていて、「入札」を行う人が誰もいなかったのなら、 信号機は今までどおり、一定時間ごとの動作を行う。あるいはそれでも急ぎたいなら、 「1円」入札を行うだけで、信号機を合法的に無視できる。東京あたりなら、 たぶん「15秒間」に価値を見出す人多そうだから、毎回の信号ごとに、 都内のどこかで「オークション」が発生して、全て都の収入になる。

けっこう面白いことがおきると思う。

高額入札をする人が2人いた場合、信号機は最大で90秒間「青」になって、 交差点の反対側は、30秒間しか渡れなくなる。

「青」を勝ち取った車の周囲には、もちろん他の車が大量にいて、その人達もまた、 オークションに競り勝った人の恩恵にあずかることができる。たとえば毎日「ノンストップ」 を信条にしているお金持ちがいたならば、その人の生活サイクルに通勤時間を合わせれば、 その人もまた、無償で「ノンストップ」が手に入る。このやりかたは、 急ぎたい人の流れを止めないシステムになる。

普段から混雑している道路には、そうでない道路に比べて、「急ぐ人」が たくさん存在している可能性がより高い。 「オークション信号機」を上手に設置すれば、渋滞を減らすことができるかもしれない。

「時間は平等」という立場からは、 オークションは不公平なルールだけれど、時間を「忙しさ」に応じて配分してほしい 人達にとっては、このルールこそが公平に見えるはず。

院内PHSのこと

今の病院は、携帯電話社会。

医師をはじめとするスタッフは、みんなPHSを持っていて、何かあったらすぐに呼ばれる。

携帯電話みたいなリアルタイムメディアは、「割り込み」という致命的な問題を抱えている。

大事な話をしているときとか、手元狂うと危ない手技をしているときに限ってPHSが鳴り響いて、 電話に出てみれば「伝票にサインがありません」みたいな、正直どうでもいい問題だったり。 院内の連絡手段が携帯電話になって、まとまった時間を取るのが難しくなった。

これもまた、「平等」が生み出す不平等。

電話をかける側も、受ける側も、自分が今過ごしている「時間」の価値は、刻一刻と変化する。 大事なことしている間の時間というのはすごい価値を持つし、ヒマな時には、時間の価値は地に落ちる。 明日でもいい伝票のサインは急がないけれど、患者さんの急変コールは、 主治医が何をしていようが、「その場」で伝わらなければ意味がない。

相手がどんな状態なのか、相手の時間価値は今どれぐらいなのか、それを知るすべがないから、 全ての電話は「割り込み」から逃れられない。

病院用のPHS には、本体に「忙しさ」を示すギミックをつけてほしいなと思う。 何年も前から要望出してるのに、どのメーカーもまともに取りあってくれないけれど。

具体的には、PHS の本体にスライドバーをつけて、自らの忙しさを5 段階、 「すごくヒマ」「ヒマ」「普通」「仕事中」「発狂寸前」を、相手の電話に 表示する機能。

その表示は、ナースルームからリアルタイムに参照できるようにしてもいいし、 医師の内線を押した瞬間、相手の「忙しさ」が表示されて、そこで連絡を中止すれば、 相手の電話が鳴らないような機能にしてもいい。

これも一種のオークション制度。 相手の重要度と自分の重要度とをそれぞれ比較することで、もっとも正しそうな結果に 落とし込むやりかた。

こんなインフラを実装できると、電話には「外情報」が発生する。

スライドバーを「発狂」にしてもなおかかってくる連絡ならば、 それは電話機をとる前の段階で「何か重要なことが起きた」ということが伝わる。 主治医は誰でも、「思い当たること」の一つや二つ抱えているから、 電話機を取る前の段階で、心の準備をすることができる。ほんの数秒間のことだけれど、 これは案外大切だと思う。

このやりかたは、ヒマにしてても「忙しい」表示をする裏切り者の発生を防げないけれど、 病院でPHSを持っているのは、せいぜい60人ぐらい。ルールなしでも、コミュニティの小ささが、 たぶん裏切り物排除の機能を自然に実装するはず。

病院のネット予約

病院のネット予約が当たり前になる時代が来れば、「病院の忙しさ」みたいなパラメーターを リアルタイムで公開できるようになるかもしれない。

患者さんが自宅の住所を検索すると、周辺の病院一覧がマップに表示されて、 忙しい病院は赤い、患者さんが少ない病院は青いカラーを与えられて、 「色温度」を利用した混雑度を検索することができる。

患者さんは、「どうしてもこの病院」という思い入れがないのなら、 一番空いている病院を予約すればいいし、「ここ」という希望があって、 なおかつ「今かかりたい」のなら、忙しい病院の予約枠を購入することもできる。

こんなサービスが実装されたら、きっと反対意見が殺到するのだろうけれど、 今の時点で「平等」から割りを喰っている人達のほとんどは、 時間単価が極めて高い、忙しい人たち。こんな人達にしてみれば、 「時間をお金で購入する」機会が奪われている平等ルールそれ自体、 たぶんものすごく不平等なものと考えているはず。

機会の均等とオークション制度

信号機にしても、PHSにしても、何かの機会を公平にするやりかたは、 同時にその「公平さ」に割りを喰う人を生んでしまう。 そんな人達はしばしば、系の中で最も生産性が高かったりするから、 これは本来不幸なことだと思う。

機会の均等化は本来、「オークション」みたいな制度の実装と一緒に進めないと、 その利点を最大化できない。

機会が不平等だった時代、「機会」と「自由度」とは全く同じもので、機会にアクセスできない人には、 そもそも「自由度」なんて発生しなかった。

「平等」ルールができて、機会はみんなのものになったけれど、自由度の総量は 限られていたから、今度は「自由」というものが、声の大きな人に独占されてしまった。

機会が平等になったなら、「自由」というものは、 本来は対価を支払って購入するものになるべきなんだと思う。 規則に従う代わりに、安価に機会を得る人と、対価を支払うことで「自由度」を購入する人達とが 共存する社会。

今の平等ルールは、今度は対価を支払う機会を奪ってしまう。自由が欲しい人達は、 「声の大きさ」以外の方法で自由を取得することができない。 これもまた、機会の不平等。公平なルールが、新しい不平等を生んでしまっている。

機会は平等になるべきだけれど、平等という考えかたもまた、「あらゆる機会を平等にしていく」 方向へと、もっと進化していくべきなんだと思う。