薬のランクづけ

研修医として入った病院には、深夜の救急外来で処方できる薬剤に階級があった。

夜間の救急外来は研修医が診察するルールであったが、研修医が自分の判断で処方できる薬、処方するのに上級生の許可がいる薬、さらに処方するには責任当直医師の判断を仰がなくてはならない薬とそれぞれ分かれていた。

研修医が自分で処方できるのは解熱鎮痛薬のアセトアミノフェン、胃薬のマーロックス、整腸薬のラックBとタンナルビン、PL顆粒ぐらいのもので、抗生物質を処方するためには最低でも3年目以上の上級生を叩きおこす必要がある。

起こすためには甘いカルテは書けないし、適応のない処方で上級生を起こせばやはり怒られる。かといって自分だけで処方できる薬は副作用こそないものの、症状を劇的に取るものは含まれないので、研修医は患者さんについて眠れぬ夜を過ごすことになる。

そのうち診察をするのに慣れてくると徐々に階級の高い薬を処方できるようになり、研修の後期にはH2ブロッカー、内服のセフェム等は勝手に処方しても怒られなくなってくる。それでも、循環器系の作用薬、プロトンポンプ阻害薬、第3世代以上の点滴の抗生物質の使用にはかなり年次が上がるまではスタッフの許可が必要だった。

今思っても結構よくできたシステムで、どんな薬が安全で、どんな薬が処方に注意が必要なのかは1年もすると叩き込まれるようになる。こうしたシステムで育てられると、喘息や腎不全のある患者さんにNSAIDを処方してしまうことなどなくなるし、不必要な抗生物質投与についても本能的に避けるように教育されてしまう。

上級生になった今でも当時の「初心者用」の薬はどんな人に使ってもまず副作用の生じない薬として頻用しているし、また研修医が診察に当たる夜間の外来の安全対策としては優れているように思う。

もっとも、研修医が夜間の外来に一人で当たるということ自体が今はもうありえないのかもしれない。ただ、自分の睡眠時間を何とか確保しながらこうした外来を一人でやりくりする経験をつまないと、いざ独り立ちしたときに多数の患者さんをさばきながら外来を回すことは絶対にできないと思う。