「下向き」の想像力について

頭がいい人が、「上」に向かって想像力を働かせて、それまで誰も考えなかったようなサービスを作る方向と、 同じく頭のいい人が、「世の中には想像を絶する馬鹿がいる」という信念の下に、 カモをコントロールするやり方を模索する方向と、想像力には「上」と「下」みたいな方向性がある。

上向きの想像力が生み出すプロダクトはすばらしいけれど、世の中を回しているのは、 むしろ下向きの想像力なんだと思う。

振り込め詐欺のこと

振り込め詐欺の人達が使う手口はあまりにもあからさまで、どうしてあんなものに大勢が引っかかるのか 不思議でしょうがないけれど、詐欺の秘訣というものは、「たくさんの人に電話をかける」、 それが全てなんだという。

常識的な人達は、たぶん「こんな話に騙される人が世の中にいる」という、 そのこと自体を信じられない。信じられないから、あんなことをやろうなんて思わない。

振り込め詐欺にかかわる人達は、たぶん「世の中には絶対にカモがいる」と考えていて、 1 日に数千人とか、「カモ」に当たるまで電話をかける。

振り込め詐欺の手口というのは、あたかも会社勤めの人と同じく、すごく「勤勉」にやらないと 成功しないらしい。その勤勉さを支えているものこそが、あの人達の「下向きの想像力」なんだと思う。

「金払いのいい阿呆」が社会を回す

「パチンコ業界が危ない」なんて特集で取材されてたお客さんは、年間40万円ぐらい借金して、 たぶん同じぐらいの金額を、パチンコ屋さんで消費していた。今は消費者金融が厳しくなって、 だからパチンコ業界に流れ込むお金も減っているのだと。

借金してまでパチンコにお金をつぎ込むような熱狂的なユーザーは、自分が遊び場にしている ネットサービス界隈にはいない。

今使っているサービスのほとんどは無料のものだし、有料ユーザーとしてお金を支払っているサービスにしても、 月にせいぜい500円だから、パチンコ屋さんとは比べるべくも無い。

パチンコの面白さは自分には分らない。借金してまでパチンコ屋さんにお金を貢ぐ人達は、 だから自分なんかから見ると、「金払いのいい阿呆」に見える。

理解は出来ないけれど、30兆円産業なんて言われるあの業界を回しているのは間違いなくあの人達だし、 すばらしい理念と技術をぶち上げたIT 企業が軒並み失速していく一方で、 技術であったり、顧客の規模なんかでははるかに劣る「出会い系サイト」は、 そうした「金払いのいい阿呆」の支持を得て、確実に業績を伸ばしてる。

「金払いのいい阿呆」は行動する。「バナナで痩せる」なんて声を聞いたら、気前よくバナナに殺到するし、 メディアが推薦する、雰囲気のいい候補者がいたら、気前よく自分の時間を費やして、選挙会場に足を運ぶ。

上向きの想像力は響かない

ネット界隈の、ブックマークがたくさんついているような、冷静な、「頭のいい」意見は、 「金払いのいい阿呆」の心には、全くといっていいほど響かない。

たぶん政治家の人たちは、「俺は頭がいい」なんて、世の中に距離を置く意見を持つ人を、 顧客として想定していない。政治家が大事にするのは、号令かけたら集まって、 鉢巻きを巻いて、スローガンを受け入れて、腕を振り上げて叫ぶ人達であって、 政策を「分析」する人間なんて、そもそも求めていない。

社会には、「祭りを見る人」と「祭りに参加する人」とがいて、祭りに参加する人の中に、 さらに「御輿を担ぐ人」がいる。

パチンコ業界を繁栄に導いて、IT 企業としての出会い系サイトを繁盛させて、 やせるためにバナナを買って、選挙があれば素直に投票場に行くような、お金を払ったり、行動したり、 自らのリソースを支払うことに気前のいい、「御輿を担ぐ人」達こそが、社会を回す。

google だとか「はてな」だとか、世界を相手に巨大なサービスを展開する企業は、 観光客として祭りにきて、焼きそば一つ買わないで、デジカメ片手に祭りを観察する人達のほうにばっかり 目を向けていて、祭りを本当に盛り上げる人達、祭りに参加して、祭りを作って、お金を払って、御輿を担ぐ、 そんな人達の方向を向いていない気がする。

google だって成功した企業であることには間違いないけれど、莫大な資本を投下して、 あれだけのインフラを構築した割には、得られたお金は決して多くない。なんだか効率悪く見える。

「現金工学」みたいな学問を見てみたい

ある状況によって生み出された人々の行動を、「お金」に変えるやりかたというのは、 まだ「学問」の形で体系化されていないんだろうか ?

経済学には、「マネタイズ」というカタカナ言葉があるみたいだけれど、 「こういう状況ならこんなやりかた」みたいな、方法論が体系化されていたり、 定説が作られていたりと行ったイメージとはちょっと違う印象。

自分は会社を経営しているわけでもないし、本業以外のビジネスを手がけたこともないけれど、 「ビジネスをしている人」だとか、「お金を稼ぐやりかた」を見るのが好き。

どんなやりかたが興味を引くのか、企業家の人と、自分みたいな外野と、 また全然違うんだろうけれど、このあたりは個人の感覚として、 「お金の匂い」のしてくるやりかたというのがたしかにある。

「コミュニティでタイアップ企画」とか、「ユーザーと商品開発」とか、「Win-Win」とか、嘘だと思う。 そんな理念はたしかにすばらしいけれど、やっぱりお金の匂いがしないから。

ネットサービスが収入にしている「広告モデル」なんかも、本来は正しい現金化手法が 見つかるまでの「つなぎ」でしかありえなくて、あれをゴールに据えるのは、どこかおかしい。

  • どんな「カモ」がいるのか。どんな「カモ」を想定するべきなのか
  • 人を「金払いのいい阿呆」にする状況をどう作り出せばいいのか
  • 「金払いのいい阿呆」になった人々を、どうやってコントロールするのがうまいやりかたなのか

「下向きの想像力」に優れたいろんな分野の人達が、お互いの知恵を持ち寄って、 こんなテーマを語りあったなら、きっとすごく面白いことになると思う。