砂場としての2ちゃんねる
ネットは年々厳しくなっていくように思える。
ルールは昔を引き継ぐものだから、昔からいる人たちはすでにルールを知っていて、ルールはますます複雑に、あとから入ってきた人には分かりにくいものになった。ネットワークでできることはずいぶん増えて、ネットのうわさ話がニュースに取り上げられる機会も増したけれど、結果としてこれは、「やってはいけないこと」をやってしまった人が負うべきペナルティを、ずいぶん重たいものにしてしまった。
取り返しのつかない状況に陥るまでの時間も短くなった。HTML の昔なら、記事を書いて検索エンジンに取り上げられるのに1週間ぐらいかかったけれど、blog の記事をネットに上げると、5分もすれば Google の検索に引っかかる。Twitter はもっと速くて、書いて1分もすると、もう検索サイトにログが残って、そうなるともう、自分では記事をコントロールすることができなくなってしまう。
ソーシャルサービスは恐ろしい
mixi にしてもFaceBook にしても、Twitter もそうだけれど、最近のサービスは恐ろしい。
検索機能が充実していて、黒歴史の告白でも、思わず喋ってしまった秘密でも、一度書いてしまうと、全く関係のない誰かが、ある日いきなりログを掘る。発言にはID が紐付いて、ID とプロフィールページ、日記の内容がそろってしまうと、Google先生 は簡単に実名を教えてくれる。
mixi の出始めは、「エンジニアの人たちが深く突っ込んだ技術話をする場所」というイメージだったし、Twitter を始めた頃は、ニュースサイトの管理人だとか、人気のある blog を運営している人たちが、楽屋裏よろしくおしゃべりをしている場所だった。いずれにしてもそこは、安全装置抜きの、インターネットに昔から親しんだ人たちが集まるのが前提の場所で、初心者が気安く入れる場所ではなかったのだと思う。
2ちゃんねるは安全
2ちゃんねるという場所は、今思えば初心者に優しい仕組みになっていた。雰囲気が殺伐としているからそもそも怖いし、粋がって変なことを書き込もうものなら、古参の人からちゃんと脅し上げられた。ネットを始めたばかりの頃、馬鹿なことをしでかすたびに叩かれたけれど、どれだけうかつな振る舞いをしたところで、ネットと実生活とが接続しないように配慮されていて、影響は出なかった。
win95 の昔は、匿名掲示板の素人は、たしかにひどい目にあった。ブラクラを踏んだり、リンクを飛んだ先がグロ画像だったり、あるリンクを踏んだらいきなりPCがクラッシュしたり、初心者にはそれがとても恐ろしかったけれど、PCを再起動すれば、問題のほとんどは解決して、IPアドレスも更新されて、また「別人」として復活できた。あの場所は、素人が安全に痛い思いをするための仕組みが備わっていて、警戒心と無難な振る舞いが、遊んでいるうちに身についた。
そういう意味で、初心者に一番優しい2ちゃんねるが怖いところだと喧伝されて、本来はおっかないmixi やFaceBook が、明るく楽しい場所みたいに紹介されるのは何か違う気がする。
砂場を探すべきだと思う
匿名掲示板に比べれば優しげな、実名ベースのソーシャルサービスは、一見すると優しいけれど、転ぶと大怪我をすることになる。
強盗が外にいて、窓の外に歩く強盗の姿が見える部屋は恐ろしいけれど、鍵を閉めていれば強盗は入ってこない。カーテンが閉め切られた部屋ならば、強盗はたしかに見えないけれど、カーテンは窓の鍵も隠してしまうから、その部屋はもっと恐ろしい。見た目の気安さは親しみを生むけれど、ネットに親しんでいない人こそ、「殺伐としているけれど実は安全」な場所を選ぶべきなのだと思う。
ヨハネスブルグのメリーゴーランドと、豊島園のホラーハウスと、どちらが「子供向け」でどちらが「恐ろしい」のか、親御さんはたぶん迷わないだろうし、フェイスブックで夢を語る意識の高い学生と、2ちゃんねるを遊び倒したネットに夢を持たない人と、ネットワーク越しに何か大切な仕事を任せる際にはどちらが安全なのかと言えば、本来迷う道理もないはずなのだけれど。