いい道具のこと

何かやりたいことがあって、それにふさわしい道具を探すのが正統なのだろうけれど、何か面白い道具を手に入れて、それを使ってみたいがために、何かをはじめるケースというのもけっこうあって、いい道具というものは、そうした人を動かす何かを持っているのだと思う。最近試しているものについて。

蛍光ペンを買った

ステッドラーのテキストサーファーゲルという固体インク蛍光ペンを買った。感触が面白くて、線を引きたくて、積んでいた専門書を何冊か消化できた。

蛍光ペンはページの裏写りが好きになれなくて、昔はずっと、蛍光色鉛筆を使っていた。LYRA のFLUOLINER 99 という蛍光色鉛筆の使い勝手が気に入っていて、昔は東京に出るたびに伊藤屋でまとめ買いしていたんだのだけれど、生産が中止になったとかで、もう手に入らない。残っていた在庫を全部買ったから、まだ手元には10本ぐらい残っているんだけれど、もうもったいなくて使えない。

蛍光色鉛筆は、昔はトンボも販売していたり、選択枝は他にもいくつかあったのだけれど、発色が今ひとつ地味だとか、書き味が固いとか、どこかもの足りなかった。今は PRISMACOLOR という銘柄を使っていて、このブランドは発色はそこそこ派手で気に入っているのだけれど、コート紙に線を引くと、色が薄くなってしまう。機能的には全く問題ないのだけれど、かといって、是非使いたいというものとはちょっと違った。

固体インク蛍光ペンは「滑らかな書き心地」をうたっていて、興味があった。繰り出し式のクレヨンみたいな製品で、うたい文句のとおり、たしかに滑らかで、クレヨンで描いたような線が引けた。キャップをして保存しないといけないし、すぐにすり減るから線の太さは一定しないし、クレヨン独特の削りくずみたいなものが出るし、文房具としては、必ずしもよくできているとは言い難いのだけれど、滑らかな書き心地と派手な発色が新鮮で、本を読んでみたくなった。

ToDo リストのこと

Google のToDo リストサービスが、いつの頃からなのか、全画面で使えるようになっていた

Google のサービスは、電子メールとカレンダーぐらいしか使っていなくて、ToDo リストは使っていなかったのだけれど、ToDo を階層構造で管理できることが分かってから、ずいぶん使うようになった。

システム手帳の昔、ToDo リストはシステム手帳ならではの機能だった。普通の手帳でそれをやると、ページを使いつくしてしまうのだけれど、システム手帳はリフィルが足せたから、予定をToDo にリストアップして、それを片端からチェックしていけた。あれをはじめた頃はたしかに面白かったのだけれど、学生時代から研修医の頃、そもそも当時の自分には、そんなものに頼るほどの予定は入っていなかったから、そのうちシステム手帳自体を使わなくなって、時代はPDAに移って、それでも結局、ToDo リストは縁遠かった。

最初この頃、予定をとにかくリストアップして、それが面白かったのだけれど、そのうちリストがたまってくると、どうしてもチェックできないToDo が増えてきた。それは「カバンの中身を整理する」とか、「たまった書類を片付ける」とか、ToDo で片付けるには大きすぎる問題であって、手書き手帳の昔、こういうものをリストに作ってしまうと、もうずっと消せなかった。

犬のしつけをするときには、問題をなるべく小さくすることが大事なのだそうだ。「持ってこい」という動作一つ教えるにしても、何かものを投げて、それを拾って戻ってくるという一連の動作は犬が学ぶには大きすぎるから、まずはそれを「ものを投げたら追いかける」「落ちたものを拾う」「拾ったものを持って帰ってくる」といった要素に分ける。分割した要素ごとに、今度は犬が「そうせざるを得ない」環境を整えて、その動作を教える。要素要素の動作が完成したら、最後にそれをつなげることで、ようやく「持ってこい」が学べる。そうした一連の要素記述を、訓練士の人たちは「スクリプト」と呼ぶんだという。

ノートに鉛筆の昔から、大きすぎるタスクを分割する効用は説かれていたように思う。「何かのプロジェクトをはじめるときには、まずはノートを1冊用意しなさい」だとか、「タスクごとに見開き1枚を割り当てて、問題をブレークダウンしなさい」だとか、仕事術をうたう本で読んだ記憶がある。PDAの時代にも、恐らくはそうしたアプリケーションそれ自体は作られていたのだと思う。自分はその頃、ToDo リストからは離れていたけれど。

ToDo リストを階層管理することで、大きすぎる問題の分割と、分割した問題を片付けるためのリスト作りとが、同時進行で行える。こうした考えかたは全く新しいものではないし、やっている人は昔からこうしたやりかたをしていたのだろうし、スマートホンなど持ち出さなくても、ノートに鉛筆さえあれば、必要な機能はすぐにでも調達できたのだろうけれど、やっぱり自分は動けなかった。ノートの余白は居心地が悪そうだったし、PDAに手入力するのは、Palm に入れ込んでいた昔であっても、やっぱり大変な作業になったし。

最近、Google のToDo リストの変更を知って、Gtasks というAndroid アプリを使いはじめた。PCからブラウザ越しにToDo リストを呼び出して入力しておけば、あとはAndroid にリストが自動連携してくれて、これがありがたい。タスクを分割してリストを並べる、そうした動作が面白くて、必要がないものまでリスト化したくなる。

いいハンマーを手に入れた人は、大工仕事の予定が入っていなくても、あたりのものが何でも釘に見えるようになる。

それを使ってみたいから、何かの目的を探しはじめる、いい道具には、どこかそういう人を動かす力みたいなものが備わっているのだと思う。