壊れにくさについて

新しい携帯電話を買って考えたこと。

Galaxy Sを買った

今まで使っていたHT-03A という携帯電話がさすがに遅くて、Galaxy Sという機種に買い換えた。もうすぐ世代交代の、DoCoMo のスマートホンの中では古いほうだけれど、使っている人はまだまだ多い。仕事に使う携帯電話に無理な設定はできないから、どうすれば快適に使えるのか、何をやったら壊れるのか、「これ」という定番が固まっている機種はありがたかった。

購入した日、とりあえずGalaxy SをPCに接続して、カーネルを入れ替えた。

2ちゃんねるのROM焼き板は今でも活発で、今回使わせていただいた「パパさんカーネル」と呼ばれているものをはじめとして、日本人の方がメンテナンスしている高速カーネルがいくつか覇を競っている。今では開発がずいぶん進んで、カスタムカーネルを導入すると、自動的にroot 権限も有効になって、ClockworkMod というカスタムリカバリーも一緒に導入される。カーネルを入れ替えて、高速なファイルシステムに入れ替えて、CPUをクロックアップして、あれこれと試行錯誤していたら、起動しなくなった。

検索は便利

いきなり固まって、再起動を試みても、無理だった。OSが立ち上がるところまでは行くのだけれど、そこから先、「ブ、ブ、ブ」と本体が振動するだけで、導入したアプリケーションのことごとくが起動エラーになった。強制停止を繰り返して、それでも無理して動かすと、一部のアプリケーションについてはかろうじて動作するのだけれど、それではなんの役にも立たない。

曲がりなりにもOSが立ち上がったのだから、そこから修復を試みたのだけれど、再起動を繰り返そうが、電池を抜いてしばらく置こうが、電源ボタンを入れると「ブ、ブ、ブ」が始まって、状況は変わらなかった。

いよいよどうしようもなくなって、自宅のPCで「Galaxy 」「ブブブ」で検索すると、全く同じような状況に陥った人たちが、自分の経験を発信していた。一度こうなると、基本的にはどうにもならないのだと。

結局電源を切ったあと、ボリュームキーを上に、ホームボタンを同時押しにしたまま電源を入れて、リカバリーモードでGalaxy を立ち上げ、メニューから「Factory Reset」を選択することで、全てがまっさらな状態で再起動することができた。

この時点では、Galaxy に導入したアプリケーションは全て消滅しているのだけれど、入れ替えたカーネルファイルシステムとはそのまま残って、root 権限も消えていなかった。

Android 携帯は、gmail アプリケーションからGoogle ID を入力すると、ネットワークの側から電話帳が書き戻されて、マーケットの購入履歴もそのまま使える。マーケットから「Titanium Backup」というバックアップアプリケーションを再度導入して、まだGalaxy が動いていたときに作っておいたバックアップから必要なアプリケーションを書き戻すことで、大体10分ぐらいで携帯電話は元に戻った。

このあたりはHT-03A でさんざん経験したことだったけれど、「人柱要員がたくさんいる」携帯電話というのは、こういうときの復活手段がいくつも用意されていて安心できる。

壊れにくさのこと

中枢部分をちょっと触ったぐらいで起動しなくなるのだから、Galaxy S は「脆い」という表現もできるけれど、動かなくなったときにどうすればいいのか、起きたことをそのまま「Galaxy ブブブ」で検索するだけで解決策が見つかるこの携帯電話は、トラブルに対する対処がとてもやりやすいとも言える。

「壊れにくさ」には、「壊れないこと」と、「壊れても直せる」ことと、それぞれ違った側面がある。たとえ「壊れやすい」機械であっても、壊した経験を持つ人がたくさんいて、壊れかたとその対処方法が蓄積されているこの電話機は、どんな状況に陥っても、最低限電源が入って、リカバリーモードかダウンロードモードに入ることができれば、OSが立ち上がらなくても、ユーザー自身で復活をかけられる。

これは大きな利点であって、逆に言うと「壊れない」ことが前提になっている、失敗経験がどこにも蓄積されていない機械というものは、どれだけ「安全だ」と言われても、なかなかそれを信じる気になれない。

安心デザインのこと

Android 携帯電話は、発生したトラブルに階層性があって、階層ごとの対処がそれぞれ用意されていることが安心感につながっている。

  • アプリケーションレベルのトラブルは、OSを再起動すれば直るし、それでも無理なら削除して、マーケットから再ダウンロードすれば、たいてい何とかなる
  • OSが立ち上がらなくなってしまったら、携帯電話をリカバリーモードで立ち上げて、あらかじめ取ってあったバックアップを書き戻すか、あるいは携帯電話をファクトリーリセットすれば、まっさらな状態に戻すことができる。電話帳やアプリケーションの導入履歴はネット上に保存されているから、Google ID を入れるだけで、電話は8割方元に戻る
  • 何かの理由でリカバリーまで壊れてしまっても、ダウンロードモードに入ることができれば、リカバリーごと書き換えることもできる。メーカー純正のROM はインターネットからダウンロード可能だから、PCを経由してそれを入れれば、DoCoMo から購入したその日の状態にまで、電話機は書き戻る
  • PCに接続することすらできなくなったら、端末を洗濯機に放り込んで、「落としちゃいました」なんてDoCoMo に泣きつくと、有償交換してくれる。2年縛りの保証サービスは、こういうときには最後の切り札として役に立つ

何かトラブルが発生したら、まずはその階層での解決を試みて、それが無理でも一つ下の階層に入れれば、問題を書き戻せる。こういう構造は、安全を表現するデザインとして、個人的にはとても説得力を感じる。

それぞれの階層が独立していて、動作の前提が異なっていること。下位の階層は、上位層が前提としている何かを書き換えられること。階層性を持った安全デザインは、単なる冗長や重複でなく、そこにいくつかの前提を挟むことで達成される。比較の対象が違いすぎるにせよ、「5重の防壁」をうたっていた原子炉というプロダクトは、果たしてその「5重」にどんな意味があったのか。そのデザインは、安心を表現するものとしては不十分だったようにも思う。