チームに対する考えかた

「指示する人」と、「指示されて動く人」とがいる。

病院だと、「指示する人」はたいてい医師であって、「指示される人」は看護師さんであることが多くて、 個人的にはそれを逆にする形、いろんな人から医師が支持されて、それに反響返していくうちに、 患者さんが治ってた…というのを目指してるんだけれど、なかなか難しい。

「指示される人」が目指してるロールモデルは一つでなくて、 「ガンダム」目指している人と、「鉄人28号」目指している人とに分かれている印象。

ガンダム」と「鉄人」とが共存するのは難しくて、しばしば危険で、それは個人のポリシーと言うよりも、 むしろ病院だとか、地域の文化が、目指すべき、あるいは求める資質みたいなものを決めている気がする。

鉄人28号」目指す人達

鉄人28号には、「行け鉄人」と「飛べ鉄人」、「頑張れ鉄人」ぐらいのコマンドしか存在しない。 ごく簡単な指示しか入らないけれど、鉄人は案外器用に戦って、目的を成し遂げる。

自分が今まで働いていた病院、関東地方と東北地方のいくつかの病院では、 看護師さん達は、「鉄人28号」を目指してた。

新人の看護師さん達は、まだ何かをお願いしても動けないし、動いてもらうにしても、 医師側が細かいところまで口を出さないと、自分たちの役に立ってくれない。 「鉄人28号」目指してる人が熟達してくると、医師の漠然とした指示で適当に案配してくれたり、 食事のオーダーとか、病棟管理の方針だとか、「お任せ」と指示に書いておくと、 あとは自分たちの判断で動いてくれたりする。

「看護の自立」信じてる人が多い。

鉄人28号」目指してる人達は、 だからその動作を医師側が100% 管理することは不可能で、 ほしい道具が足りないこともときどきあるし、医師側の「こうしてほしい」と、 看護師側の「こうやってほしい」はしばしば食い違って、細かいところでトラブルになったりする。

その代わり、一度「お任せ」になれてしまうと、忙しいときとか、漠然とした指示を出しておくだけで、 「いつもどおり」に動いてくれる。慣れてる看護師さんは、医師を「誤りを犯す生き物」だと分かっているから、 慣れてくると、「看護師の指示の下に、医師がお願いを書く」形になって、すごく快適に仕事が出来る。

もちろん、こんな形になることを「快適」と思わない医師もいる。

関西の人は「ガンダム」目指す

関西、それも「大阪」限定で、看護師さん達は「ガンダム」目指してた。 3 人しか知らないから、それを一般化していいのかどうかは分からない。

昔働いていた関東地方の病院に、大阪の、誰でも知っているような有名病院で働いていた 看護師さん達が転勤してきたことがある。循環器のプロだという触れ込みだった。 たしかに何でも知っていて、仕事も上手だったのだけれど、 相手が研修医であっても、なんだか「下僕」みたいな接し方をして、ちょっとやりにくかった。

なんでも知っている人だったし、頼めばなんでもやってくれるし、何でもできる。

その代わり、その人の目の前で何が行われているのか、みんなきちんと把握しているのに、 たとえば手技を行っているのが研修医であって、 今目の前で間違ったことが行われていたとしても、よほどひどい間違えでない限り、 教えてくれない。

意地悪だったとか、そういう印象はなくて、むしろポリシーの問題。「看護師というものは、医師に対して 一切の文句を言わずに働くことが美徳なのだ」という考えかたを持っていて、 そのやりかたは、良くも悪くも「ガンダム」で、「鉄人28号」になれてる自分からすると、けっこう怖かった。

下着みたいな格好にヒョウ柄のコート羽織って出勤して、冬でも全身日焼けして金髪、 細巻きの葉巻を吸っていた。その姿はたしかに、どこから見ても「大阪」を主張していたけれど、 仕事に対する価値観は、自分が想像していた「大阪」とは、ずいぶん異なっていた。

お願いする側の文化

何かを依頼する医師側もまた、相手に対して「鉄人28号」であることを求める人と、 「ガンダム」を求める人とがいる。

田舎で働いてた頃、やっぱり関西のほうから来て下さった先生がいて、その人もまた、 看護師に対して「ガンダム」であることを求める人だった。自分なんかが「居心地がいい」と 感覚していた病棟ナースの気遣いは、その人にしてみると「思った通りに動いてくれない」なんて 不快感につながって、しばらくの間、それでも病棟はなんとか回っていたけれど、 最後はやっぱり「妥協出来ない」なんて話になって、退職してしまった。

そのあたりも、やっぱり個人の資質と言うよりは、地域の持つ文化の問題。 「適当」を目指して、「適当にやっといて」が通用する職場作りを目指す文化と、 医師が「右手を1 ㎜」と宣言したら、黙って右手を1 ㎜だけ動かす人を求めて、 そういう人を育てようとする文化と。

診療科の違いというよりは、その施設が建っている地域の持つ文化による 違いのほうが大きな印象。病棟変わっても、「適当」が通用する病院は、 どこに行ってもやっぱり「適当」が通用したから。

チームに対する考えかた

「チーム」というものについて、「鉄人28号」目指す人と、「ガンダム」目指す人とでは、 考えかたが異なるのだと思う。

スタンドプレーから生じるチームワークを目指す立場と、チームプレーを目指すためには「個」を殺すべき、と 考える人と。

他の業界にもこういう考えかたの違いがあって、「自立的組織文化」を「アテネ」に、 「統制的組織文化」を「スパルタ」に例えたモデルがあるのだなんて、某所で教えていただいた。

業界ごとに最適な組織文化が存在するのか、それとも文化それ自体は、 ある程度の多様性が認められるのか、よく分からない。

いずれにしても、組織文化にはいくつかのやりかたが混在していて、 文化を共有していない人同士が一緒に働くと、現場は混乱するし、 文化の違いはしばしば、乗り越えるのがすごく難しいのだと思う。